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僕の美しいひと
第3章 じゃじゃ馬ならし
「思っているよ。僕の眼に狂いはない」
郁未はきっぱりと断言した。

清良の美しい貌がふと曇った。
気の強い表情はなりを潜め、どこか頼りなげな幼い表情に取って変わられる。
「あたし…あんたに言ってなかったけど…スリ以外でも結構悪いことしてたんだよ。
金持ちのオヤジ騙して金を掠めとるとかさ…。
…美人局みたいなこともした…。
だから…あんだが望むようなお姫様みたいなひとにはなれない…なれる訳がないんだよ…」
清良の手が止まった。
俯いた拍子に、清良の髪に結ばれた菫色のリボンがさらりと揺れた。

郁未が清良の白い手からフォークを受け取り、柔らかなクリームコロッケを掬い、口元に運んだ。
「食べなさい」
驚いた清良は思わず口を開け、コロッケを咀嚼した。

そんな貌を覗き込むようにして、包み込むように微笑いかける。
「…君のせいじゃない。すべては戦争と貧しさと国と…僕ら大人の責任だ」
「でも…!」
「君は悪くない。…そうしないと生きて行けなかったんだ。
それに…もう充分反省しているだろう?」
清良はぎゅっと口唇を引き結び、しっかりと頷いた。
「もうしない。あんなこと…二度としない」
郁未は破顔し、清良の頭に手を置いた。
「いい子だ。
…じゃあ、これからはビシビシ行くよ」
「へ?」
鳩が豆鉄砲を食らったかのように眼を見開いた清良を可笑しそうに見つめる。
「君をレディにする。
…日本一の…いや、世界一の美しくエレガントで淑やかな完璧なレディに仕上げてみせる」

清良は盛大にため息を吐いた。
「…あんたって、やっぱりイカれてるよ」


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