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僕の美しいひと
第1章 春の野良猫
郁未は浅草の仲見世を歩いていた。
…敗戦の混乱はやや収まってはいたが、依然身寄りのない子どもたちが寝ぐらを探し徘徊したり、中にはやくざな大人達の手下となり悪に手を染めている場合が少なくなかった。
郁未は時間があると、浅草や上野などの下町を歩き廻り、孤児や親に虐待され放置されている子どもはいないか探していた。
「お前の見るからにお坊ちゃん顔はすぐに悪い奴らが寄ってくるからな。気をつけろよ」
鬼塚にいつも釘を刺される。
…まったく。鬼塚くんは僕をいくつだと思っているんだよ。もうすぐ三十なのに…。
ふんと口を尖らせながら、仲見世を見渡す。
…相変わらず人出は凄まじい。
花見のシーズンは終わりかけだというのに、たくさんの出店や見世物小屋、芝居小屋などまるでお祭り騒ぎのような春の宵であった。
なんとなく賑やかな店並に気を取られ、そぞろ歩きをしていると、不意に前から軽い衝撃を受けた。
「あっ…と…」
見ると、地味な身なりの少女が郁未にぶつかってきたのだ。
「ああ、ごめんね。お兄さん。ちょっとよろけちまって…」
にっこり笑ったその貌は思わず見惚れてしまうほどに美しく整っていた。
「ああ…いや、僕の方こそごめんね。大丈夫かな?」
慌てて少女を気遣う。
目深に被った帽子から覗くその貌は、着古したやや薄汚い身なりと裏腹に驚くほどに美しく…不思議な品位すらも感じ、郁未の目を惹きつけた。
「大丈夫大丈夫。
…それよりお兄さんこそ気をつけなよ。この辺はまだまだ物騒なんだから」
にやりと不遜に笑うと、少女は風のように走り去った。
一瞬の出来事に、郁未はぼんやりとし…はっと我に返った。
…嫌な予感がする。
慌てて上着の内ポケットを探る。
…ない!
やっぱり!
「君!待ちなさい!君!」
郁未は叫びながら駆け出すと、少女の後を追った。
…敗戦の混乱はやや収まってはいたが、依然身寄りのない子どもたちが寝ぐらを探し徘徊したり、中にはやくざな大人達の手下となり悪に手を染めている場合が少なくなかった。
郁未は時間があると、浅草や上野などの下町を歩き廻り、孤児や親に虐待され放置されている子どもはいないか探していた。
「お前の見るからにお坊ちゃん顔はすぐに悪い奴らが寄ってくるからな。気をつけろよ」
鬼塚にいつも釘を刺される。
…まったく。鬼塚くんは僕をいくつだと思っているんだよ。もうすぐ三十なのに…。
ふんと口を尖らせながら、仲見世を見渡す。
…相変わらず人出は凄まじい。
花見のシーズンは終わりかけだというのに、たくさんの出店や見世物小屋、芝居小屋などまるでお祭り騒ぎのような春の宵であった。
なんとなく賑やかな店並に気を取られ、そぞろ歩きをしていると、不意に前から軽い衝撃を受けた。
「あっ…と…」
見ると、地味な身なりの少女が郁未にぶつかってきたのだ。
「ああ、ごめんね。お兄さん。ちょっとよろけちまって…」
にっこり笑ったその貌は思わず見惚れてしまうほどに美しく整っていた。
「ああ…いや、僕の方こそごめんね。大丈夫かな?」
慌てて少女を気遣う。
目深に被った帽子から覗くその貌は、着古したやや薄汚い身なりと裏腹に驚くほどに美しく…不思議な品位すらも感じ、郁未の目を惹きつけた。
「大丈夫大丈夫。
…それよりお兄さんこそ気をつけなよ。この辺はまだまだ物騒なんだから」
にやりと不遜に笑うと、少女は風のように走り去った。
一瞬の出来事に、郁未はぼんやりとし…はっと我に返った。
…嫌な予感がする。
慌てて上着の内ポケットを探る。
…ない!
やっぱり!
「君!待ちなさい!君!」
郁未は叫びながら駆け出すと、少女の後を追った。