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僕の美しいひと
第1章 春の野良猫
少女の足は素早かったとはいえ、所詮若い男の足には敵わない。
人混みの混乱もあり、郁未はほどなくして少女に追いついた。
その腕を掴み、声をかける。
「待ちなさい、君!」
「痛っ!何すんのよ!」
少女は逃げ出そうと身を攀じる。
ほっそりした腕をがっちりと握りしめる。
「こら、逃げるな。出しなさい。取ったものがあるだろう?」
険しい口調で詰め寄る郁未に少女は舌打ちし、胸元に忍ばせた上質な革財布を放り投げる。
「なんだよ。返しゃいいんだろ。返しゃ。
いいとこのボンボンがぼ〜っと歩いてんのがいけないんだろ。バーカ!」
悪口雑言を投げつけると、手を振り払う。
そうして憎々しげに郁未を睨みつけ、立ち去ろうとした。
「待ちなさい。君、いくつ?名前は?」
「はあ?17だよ。なんか文句ある?」
「来なさい」
郁未は毅然として少女の手首を再び捉えると、人混みを掻き分けるように歩き出した。
少女はさながら捕らえられた野良猫のように殺気立ち喚き散らす。
「ちょっと!離してよ!なんなんだよ、あんた!
まさか、サツに突き出す気!?
離せってば!もうっ!聞こえないのかよ!バカバカバカ!」
周りの人々が何事かと驚き注目する中、郁未は暴れる少女の手を握りしめたまま、足早に歩き続けた。

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