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僕の美しいひと
第3章 じゃじゃ馬ならし
郁未の厳しい補習と礼儀作法の特訓は毎日続けられた。
意外なことに、清良は根を上げなかった。
反抗することも少なくなった。

そして学業は元より、言葉遣いや礼儀作法の習得ぶりは驚くべき吸収力で体得していった。

「元々、賢い子なんだろうな。一度教えたことは決して忘れないし、想像力も感受性も豊かだ」
鬼塚も珍しく感心していた。

郁未はふと、清良の内訳話しを思い出した。
「…父親はかなり裕福な出自だったらしいよ。
そちらの血筋なのかな…。
…だからかな…」
郁未は、下級生の小さな子どもたちの世話をする清良を見ながら付け加えた。

「…清良には、どことなく品がある。
あれは生来のものに思えて仕方ないんだ…」

清良は学院の子どもたちにあっと言う間に好かれた。
本人も子ども好きらしく、嫌な顔ひとつせずに甲斐甲斐しく世話を焼いたり遊んでやったりしていた。

…清良は薄いブルーの小花模様の裾の長いドレスに白いレースがあしらわれた上質のコットンのエプロンを付けている。
放課後の普段着姿だ。
笙子に結ってもらったらしい髪は、緩やかに波打ち濃紺のベルベットのリボンで結ばれ肩にさらりと垂らされていた。
化粧もしていないその白い肌は艶やかに澄んでいて、黒瑪瑙のような濃い色をした瞳は、きらきらと輝いていた。
口唇は、咲き染めたばかりの桜の花のような可憐な様であった。
…その美しい姿は、まるでどこかの貴族の令嬢のようで、優美な絵画の一場面のように郁未には映った。

「…綺麗だな…」
独り言のような言葉を、鬼塚は聞き逃さなかった。
意外そうに眉を上げ郁未を見て眼を細めたが、何も言わなかった。
「…とても綺麗だ…」
…郁未は小さく繰り返した。


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