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僕の美しいひと
第4章 真実と嘘
…伊津子が語り始めた話は、恐るべき事件であった。
「…私は…十七年前に待ち望んでいた女の子を出産いたしました。
…義彦様の元に嫁いだものの、なかなか子宝に恵まれずに…ずっと待ち侘びていた待望の子どもでした…。
生まれた時は本当に幸せで…夢のような気持ちでおりました…」
伊津子の貌が昔を慈しむかのように柔らかに融けた。
…けれど…と、形の良い唇が苦しげに歪む。
「…産後三日目のことでした…。
私の赤ちゃんは…突然…居なくなってしまったのです…」
傍らで話を聞いていた婉子が驚きに声を上げた。
「それは…どういうことですか?」
苦しげに項垂れる伊津子に代わり、高遠が口を開く。
「…盗まれてしまったのです。
…屋敷に勤めていた一人のメイドによって…」
郁未と婉子は息を呑んだ。
高遠が覚悟を決めたように告げた。
「…お恥ずかしい話ですが、郁未さんですからお話しいたします。
そのメイドはどうやら私のことが好きだったようです。
何度か想いを打ち明けられましたが、私は伊津子を一筋に愛しておりましたので、さり気なくかわしておりました。
けれどその後も執拗に告白されたので、思わず強く拒んでしまったのです。
…これ以上私に迫るのならば、君を解雇する…と。
…我が子が盗まれたのはその翌日のことでした…」
…メイドが主人に横恋慕し拒まれた挙句、主人の最愛の赤ん坊を盗む?
俄かには信じ難い告白に、郁未は言葉を失った。
「…それで警察には…」
「もちろん届けました。
捜査が始まり、メイドが夜中に何かに包まれたものを手に屋敷を出て行ったことも判明しました。
…けれど、そのメイドの行方は杳として知れず…。
未だに何の手掛かりも掴めてはおりません…」
その日のことを思い出したかのように、高遠は苦しげに息を吐いた。
懺悔に似た言葉が続く。
「…私がもっと上手く…そのメイドを刺激しないように断っていたら…こんな悲劇は起こらなかったに違いありません。
…すべては私の不徳の致すところです。
私が伊津子を傷つけ、大切な我が子を失ってしまったのです」
「…私は…十七年前に待ち望んでいた女の子を出産いたしました。
…義彦様の元に嫁いだものの、なかなか子宝に恵まれずに…ずっと待ち侘びていた待望の子どもでした…。
生まれた時は本当に幸せで…夢のような気持ちでおりました…」
伊津子の貌が昔を慈しむかのように柔らかに融けた。
…けれど…と、形の良い唇が苦しげに歪む。
「…産後三日目のことでした…。
私の赤ちゃんは…突然…居なくなってしまったのです…」
傍らで話を聞いていた婉子が驚きに声を上げた。
「それは…どういうことですか?」
苦しげに項垂れる伊津子に代わり、高遠が口を開く。
「…盗まれてしまったのです。
…屋敷に勤めていた一人のメイドによって…」
郁未と婉子は息を呑んだ。
高遠が覚悟を決めたように告げた。
「…お恥ずかしい話ですが、郁未さんですからお話しいたします。
そのメイドはどうやら私のことが好きだったようです。
何度か想いを打ち明けられましたが、私は伊津子を一筋に愛しておりましたので、さり気なくかわしておりました。
けれどその後も執拗に告白されたので、思わず強く拒んでしまったのです。
…これ以上私に迫るのならば、君を解雇する…と。
…我が子が盗まれたのはその翌日のことでした…」
…メイドが主人に横恋慕し拒まれた挙句、主人の最愛の赤ん坊を盗む?
俄かには信じ難い告白に、郁未は言葉を失った。
「…それで警察には…」
「もちろん届けました。
捜査が始まり、メイドが夜中に何かに包まれたものを手に屋敷を出て行ったことも判明しました。
…けれど、そのメイドの行方は杳として知れず…。
未だに何の手掛かりも掴めてはおりません…」
その日のことを思い出したかのように、高遠は苦しげに息を吐いた。
懺悔に似た言葉が続く。
「…私がもっと上手く…そのメイドを刺激しないように断っていたら…こんな悲劇は起こらなかったに違いありません。
…すべては私の不徳の致すところです。
私が伊津子を傷つけ、大切な我が子を失ってしまったのです」