この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
僕の美しいひと
第4章 真実と嘘
高遠の手に、伊津子の白い手が重なる。
「いいえ、義彦様。貴方のせいではありません。
…私がもっと気をつけていたら…。
乳母任せにせず、私の寝台にあの子を寝かせていたら…。
せめて同じ部屋にベッドを置いていたら…。
…私の…大切な赤ちゃんを…!」
伊津子が貌を覆い、静かに嗚咽を漏らした。
伊津子の肩に高遠の大きな手がそっと置かれる。
「泣かないでくれ、伊津子…。もちろん君のせいではない。…もう自分を責めるのはやめてくれ…」
恐らく夫婦で何千回何万回と繰り返されたであろう痛ましい会話だった…。
上流階級の子育ては、乳母がするのが常識だ。
しかも産後すぐならば、乳母が育児室で赤ん坊を見るのが当たり前なのだ。
伊津子は悪くない。


すっかり同情した婉子は自分も泪ぐみ、レースのハンカチを目に当てていた。

「…何か、手掛かりはありませんか?犯人の行方…赤ちゃんの行方を特定できるようなものはありませんか?」
赤ん坊が盗まれてから十七年の月日が流れていることは、何よりの痛手だ。
成長し貌が変わっているだろうし…何より激しい戦争があった。
…亡くなっている可能性もある。
しかし、それを口にするのは憚られた。

「…それが何も…。
夜中に跡形もなく消えていたのです。
赤ん坊も…カメオも…」
高遠は絶望的に首を振った。

その言葉に郁未は弾かれたように反応した。
…カメオ…。
どこかで聞いた言葉だ…。

「…カメオ…ですか?」
「はい。子どもの誕生記念にイタリアの職人に作らせたカメオの首飾りです。
赤ん坊が寝ている揺籃の傍に置いてありました。
それがなくなっておりました」
「…それは…どのようなカメオですか?」
言葉が些かに震えだす。
「聖母子像のレリーフのカメオです。かなり大判のものです」

不意に郁未の頭の中に、清良の声が蘇った。
…「母さんに渡されたんだ。これだけは絶対に手離すな…て。
手切れ金代わりに貰ったんじゃないの?その旦那に…」

郁未の心臓が激しく音を立てる。
「…侯爵。そのお子様に…お名前は付けておられましたか?」
高遠が頷いた。
「はい。生後直ぐに名付けました。
…清良と…」
「…きよ…ら…⁈」
喉奥から絞り出された声は低い叫びとなった。
郁未の表情の変化に戸惑うように、高遠は続けた。
「清らかに良いと書きます。
…郁未さん?どうなさったのですか?」

/131ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ