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第4章 真実と嘘

清良の形の良い眉が不審そうに顰められた。
「…あんた、何言ってんの？
あたしが侯爵令嬢なわけないじゃん。
あたしは亡くなった母さんの娘なんだよ？
…母さんが高遠なんとやらの愛人だった…ていうならまだしも…」
郁未は首を振る。
「違う。君は高遠侯爵夫妻の間に生まれた正式な娘なのだ。
君のお母様は高遠伊津子さんなのだよ」
甲高い声で、清良が叫んだ。
「嘘だ！あたしは母さんの娘だよ。
だって…そうじゃなきゃ…なんであたしは母さんのところにいたんだよ」
郁未は残酷な事実を打ち明けなくてはならない自分に…そして、それを聴かされなくてはならない清良に胸を激しく痛めた。
…だが、告げなくてはならないのだ…。
真実を…清良は知らなくてはならないのだ…。

「聞いてくれ。…君は生後直ぐに高遠夫妻の元から、君の母親によって盗まれてしまったのだ。
そして、それを知らされぬままに、母親に育てられてきたのだ」
清良の白い貌からすうっと血の気が引き、青白くなる。
震える唇が引き攣る。
「嘘！嘘だ…そんなこと！だって、何でそんなこと…」
清良を落ち着かせるように、出来るだけ穏やかに語りかける。
「君の母親は、高遠家に仕えるメイドだった。
そして高遠侯爵に横恋慕した。
だが、手酷く振られた母親は侯爵夫人に逆恨みし、生まれたばかりの赤ん坊…つまり君を盗み、失踪したのだよ」

美しい大きな瞳が見開かれる。
激しく首を振り、郁未の腕にしがみつく。
「嘘だ…嘘だよ！そんなの嘘だよ！…それって…まるで…」
清良の緊張に満ちた冷たい手を強く握りしめる。
…残酷だが、事実を告げなくてはならないのだ…。

「…そうだ…。君の母親は…失恋の腹いせに君を侯爵夫人から奪ったのだよ。
誘拐という…最も卑劣な手を使って…」