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僕の美しいひと
第4章 真実と嘘
「…そうか…。そんな真実が隠されていたとはな…」
翌日、院長室で郁未から清良の出生の秘密を聞いた鬼塚は、深いため息を吐いた。
「うん…。僕も驚いたよ。あのカメオにそんな秘密があったなんて…。
…けれど、そう言われて見れば確かに清良には生まれながらの品格みたいなものが備わっていた。
どんな貧困な育ちであろうと損なわれないような気品が…」
…あの気品はやはり本物だったのだ。

「…清良はどうしている?」
郁未は悩ましげに首を振った。
「あれから部屋に閉じこもったままだ…。
無理もない。母親だと信じていたひとが他人で…しかも自分を誘拐した犯人だった訳だからね…」

…十七歳の少女には過酷な真実だっただろう。
清良は母親を慕っていたようだった。
貧しい中でも、清良を懸命に育てていたようだ。
…清良にとっては良い母親だったのだ。
心中は複雑だろう。
今朝は朝食も摂らず、郁未の呼びかけにも一言も答えない有様であった。

「…今朝、清良のことを高遠侯爵に知らせたら、今直ぐにでも会いたいと申し出があったんだ。
夫人は電話口で泣いておられた…。
午後にいらしていただくことになったよ。
それまでに清良の気持ちが少しでも落ち着くといいんだけれど…」

傍らで静かに話を聞いていた笙子が、そっと口を開いた。
「私が清良さんにお話してみますわ。
…そして、清良さんのお気持ちをお聞きしてみます」
「…笙子さん…」
「…私も、孤児でした。
不幸な事件で記憶を失くし、養父母に引き取っていただきました。
…兄の記憶もずっとないままでしたわ。
一番忘れてはならないひとなのに…」
「…小春…」
鬼塚が慰撫するように、笙子の手を握りしめる。
笙子の華奢な白い手がその手を握り返す。
「…思い出した記憶は辛いものでした」
美しい眉が辛そうに寄せられる。
「…小春…」
「…笙子さん…」
笙子は、気遣う鬼塚と郁未に柔らかな微笑みを向けた。
「…けれど私は、思い出して良かったと思っております。
真実を知ることが出来て良かったと…」
「…笙子さん…」
…笙子の美しさは、心の強さからくるものなのだと郁未は改めて感じた。
艱難辛苦を乗り越えたものだけが、得ることができる聖なる美を…。

「清良さんも、きっと真実をお知りになりたいはずですわ。
…いえ、知らなくてはならないのです」
笙子はきっぱりと断言した。




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