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僕の美しいひと
第4章 真実と嘘
「…本当に、一緒に行かなくて良かったの?」
名残惜しげに何度も振り返りながら車に乗り込む伊津子を玄関から見送り、郁未は隣に立つ清良に尋ねた。

「…うん。…だって…あのひとには悪いけど…まだ実感がない…」
感情が読み取れない言葉がぽつんと聞こえた。
「あのひと…て。…君のお母様だよ、本当の…」
取りなすように伝える。
「…分かってる。
あのひと、あたしにすごく似てる…。
首飾りの話も、納得できる。
…でも…あたし…まだ母さんが悪いひとに、どうしても思えない…。
…でも、あのひとたちがあたしのことをずっと探してて、あたしを愛してくれているのも分かる…。
…だから…だからまだあのひとたちの家には行けない…。
行っちゃいけないと思う…」
清良の細い肩は細かく震えていた。
郁未は考えるよりも先に、その肩を引き寄せ、胸に抱き込んだ。
胸の中で、ほっそりとした身体が大きく震えた。
清良の驚きと哀しみと痛みを癒すように、その背をゆっくりと撫でる。
「…君はいい子だ…。
優しい…いい子だ…」
「…嵯峨せんせ…」
声を押し殺して泣く少女に、優しく声を掛ける。
「…ゆっくり、考えていけばいい…。
清良が本当にすべてのことを受け入れられるまで、ここでじっくりと考えればいい…。
…僕はいつでも君のそばにいる…。
君の味方だよ…」

…清良の細い手が、ぎこちなく郁未の背中を抱き返した。
「…ずっとそばにいるよ…」
清良が小さく頷いた。
…何か、囁いたような気がしたが、聞き取れなかった。

郁未はこの少女を必ず幸せにすると…しなければならないと、静かに決意をした。

…胸に溢れるとめどない熱い想いの名前を…郁未はまだ、知らない…。

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