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僕の美しいひと
第1章 春の野良猫
静かに大階段から降りてきたのは、鬼塚の妹でこの学院で生徒の世話をしてくれている岩倉笙子であった。
笙子の夫は帝大医学部の教授で精神科医でもある。
学院の理事のメンバーの一人で、校医でもある岩倉とその夫人の笙子は、学院の運営に深く関わっていたのだ。
笙子の貌を見た少女は一瞬にして暴れるのを静止した。
…無理もない。
笙子は男女問わず思わず見惚れてしまうほどの美貌の持ち主だからだ。
白いレースの襟飾りが付いた藤色の落ち着いた裾の長いワンピースを着た笙子は、優美な美貌と柔らかな気品を兼ね備え、一種侵し難い神聖な雰囲気を醸し出していた。
そんな笙子が微笑みながら近づいて来たことに少女はやや安心した様に、郁未に抗う手を止めた。
「新しい生徒さんですか?」
優しい口調で郁未に尋ねながら少女にも目を配る。
「…いえ、先ほど偶然に出会ったんです。
少し話を聞こうと連れて来たんですが…」
「何が偶然に…だよ。あたしがあんたの財布をパクったからしょっ引いて来たんだろ?カッコつけやがって」
不貞腐れたように鼻を鳴らす少女に郁未は眉を顰める。
「こら、君!何て言葉遣いだ」
少女は冷笑を浮かべた。
「あんた、何者?お上品ぶっちゃってさ。
でもどうせあたしとヤるつもりだったんだろ?変態!」
「君!」
下品な言葉を笙子に聞かせたくなくて、声を荒げる。
「郁未さんはそんな方ではないわ。私が保証します」
静かだが凛とした声が笙子から発せられた。
「郁未さんはこの学院の院長さんなの。
ここは本当に孤児院よ。私はここで生徒さんたちのお世話をさせていただいているの。
信用してくださらないかしら?」
押し付けがましくない、穏やかな笙子の言葉には誠実さが滲み出ていた。
少女は漸く押し黙った。
少女の手を取り、笙子は優しく見つめた。
「…貴女、お名前は?」
やや口籠もりながらも、少女は小さく答えた。
「…矢木清良…」
「きよらさん?素敵だわ。とても綺麗なお名前ね。
お美しい貴女にぴったりね」
笙子はにっこりと笑い、
「さあ、清良さん。まずはお風呂に入りましょうか。
貴女はとてもお疲れみたい。
私がお手伝いいたしますわ。
…お話はそれからでもよろしいですわよね。郁未さん」
そう郁未を見上げた。
郁未はほっとしたように息を吐いた。
「…お願いします。笙子さん…」
笙子の夫は帝大医学部の教授で精神科医でもある。
学院の理事のメンバーの一人で、校医でもある岩倉とその夫人の笙子は、学院の運営に深く関わっていたのだ。
笙子の貌を見た少女は一瞬にして暴れるのを静止した。
…無理もない。
笙子は男女問わず思わず見惚れてしまうほどの美貌の持ち主だからだ。
白いレースの襟飾りが付いた藤色の落ち着いた裾の長いワンピースを着た笙子は、優美な美貌と柔らかな気品を兼ね備え、一種侵し難い神聖な雰囲気を醸し出していた。
そんな笙子が微笑みながら近づいて来たことに少女はやや安心した様に、郁未に抗う手を止めた。
「新しい生徒さんですか?」
優しい口調で郁未に尋ねながら少女にも目を配る。
「…いえ、先ほど偶然に出会ったんです。
少し話を聞こうと連れて来たんですが…」
「何が偶然に…だよ。あたしがあんたの財布をパクったからしょっ引いて来たんだろ?カッコつけやがって」
不貞腐れたように鼻を鳴らす少女に郁未は眉を顰める。
「こら、君!何て言葉遣いだ」
少女は冷笑を浮かべた。
「あんた、何者?お上品ぶっちゃってさ。
でもどうせあたしとヤるつもりだったんだろ?変態!」
「君!」
下品な言葉を笙子に聞かせたくなくて、声を荒げる。
「郁未さんはそんな方ではないわ。私が保証します」
静かだが凛とした声が笙子から発せられた。
「郁未さんはこの学院の院長さんなの。
ここは本当に孤児院よ。私はここで生徒さんたちのお世話をさせていただいているの。
信用してくださらないかしら?」
押し付けがましくない、穏やかな笙子の言葉には誠実さが滲み出ていた。
少女は漸く押し黙った。
少女の手を取り、笙子は優しく見つめた。
「…貴女、お名前は?」
やや口籠もりながらも、少女は小さく答えた。
「…矢木清良…」
「きよらさん?素敵だわ。とても綺麗なお名前ね。
お美しい貴女にぴったりね」
笙子はにっこりと笑い、
「さあ、清良さん。まずはお風呂に入りましょうか。
貴女はとてもお疲れみたい。
私がお手伝いいたしますわ。
…お話はそれからでもよろしいですわよね。郁未さん」
そう郁未を見上げた。
郁未はほっとしたように息を吐いた。
「…お願いします。笙子さん…」