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僕の美しいひと
第1章 春の野良猫
「郁未さん、ご覧になって。
まあ…清良さんのお美しいこと…!」
笙子が清良の肩を抱きながら郁未の目前に連れて行き、声を弾ませた。
釣られて見上げた郁未はその姿を見て、思わず息を呑んだ。

…この…美しい少女が…先ほどの少女と同一人物か…?
あの聞くに耐えない乱暴な言葉遣いのじゃじゃ馬の…?
信じられない思いに眼を見張る。

清良は、白いレースのブラウスに紺色のスカートを履いていた。
ブラウスは胸元で大きく蝶結びしてあり、それは学院の制服であった。
紺色のソックスを履いた脚は形が良く長くすらりと伸びていた。
靴は黒革のストラップの付いたローヒールだ。

そしてざんばらに伸びていた髪は、きちんと洗い梳かされ、紺色のベルベットのヘアバンドで留められていた。
恐らく笙子が与えたものなのだろう。
とても上品な髪飾りであった。

分けても驚いたのはその美貌だ。
…透き通るように白い練絹のような肌、美しい眉は凛として、清良の利発さを表しているようだった。
睫毛は濃く長く、その下の瞳は黒眼勝ちで黒曜石のように澄み切っていた。
彫刻刀で繊細に刻んだような整った鼻筋、形の良い唇は濃い薔薇色に染まり、艶めいていた。

郁未は美しい貴婦人たちは見慣れていた。
幼少期から社交界に出入りしていたから、美しい少女にも数多く接したことがある。
それらの少女たちや婦人たちはまるで美しい絵画が調度品のように、郁未の眼には何の感慨もなく映ったものだ。

…けれど…。
清良のような少女を見たのは初めてのことだった。

清良は持って生まれた光り輝く美しさと…その奥底にはまだ磨かれていないダイヤの原石のような魅力と神秘性を内に秘めているような…そんな少女だった。

そして、郁未は今出会ったばかりの少女にここまで惹きつけられることに我ながら不思議な気持ちに襲われ…慌てて表情を引き締めた。

「…制服が良く似合うね。その髪型も素敵だ。
さあ、掛けたまえ。
これから君のことを話し合わなくてはならない。
…矢木くん」
清良は、どさりと椅子に座った。
「清良でいいよ。…で?あたしをどうしようっていうの?慈善家のお坊っちゃま」

清良は不敵な笑みを浮かべ、郁未をにやりと見遣ったのだ。
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