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僕の美しいひと
第6章 すれ違う想い
「…先ほど高遠侯爵にお話を伺ったが、原嶋氏は清良嬢に結婚の申し込みをしているそうだ」
「…え?」
思わず息を呑む。
「漸く取り戻せたお嬢様をすぐに嫁に行かせる気にはなれないと断っているそうだが…将来的には分からないだろうな。
…何しろ、あれだけの資産家で地位も名誉もある有能な男だ。
やや年上だが、大人の包容力もある。
生まれや育ちは不明だが、敗戦後の日本でそんな形式的なことに拘る者も昨今では少なくなっている。
増してや高遠侯爵は意外にリアリストだ。
貴族の家名に頓着のないお方だ。
娘の婿には不足はないだろうな。
…郁未、押すなら今だぞ」
嗾けられ、やんわりと否定する。
「兄様、僕は清良さんには何の感情も抱いてはおりません。
今は仕事が忙しく、どなたとも結婚するつもりはありません。
ご心配は無用です」
…言いながらも、踊る二人に眼は釘付けになる。

…確かに似合いの二人だ…。

原嶋はそう言われて見れば、如何にも海の男だ。
浅黒い肌は引き締まり、堂々たる体躯は人目を惹くのに充分だった。
その容貌はやや粗野ではあるが、よく見ると整い…一種野生的な色香すら漂っていた。
そして、自分の人間力に自信を持っている者特有の余裕と魅力に溢れていた。

…清良は淑女ぶりが板に付いてはきたが、素の彼女はとても闊達で男勝りな気質だ。
その陽性で快活なところが、原嶋と妙に馬が合うような気がするのだ。

我知らず、胸がちくりと痛む。
そんな自分を否定するように首を振り、手にしたシャンパンの杯を煽る。

…いいじゃないか…。
お似合いの二人なら…。
自分は、密かに清良の幸せを祈れば良いのだ。

もう一度見上げるその先で、清良はシャンデリアの眩い光の下、伸びやかに艶やかに煌めきながら、ワルツを踊っていた…。
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