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僕の美しいひと
第6章 すれ違う想い
久しぶりに馬場に行く気になったのは、婉子からの一言だった。
「メリー・ウェザー号が仔馬を産んだのよ。
とても可愛いの。
郁未さん、ぜひ見にいらして」
婉子は無類の馬好きだ。
殆どの馬は、軍に徴用されてしまったが、密かに隠していた馬を最近になって東京にも移送しつつあった。
その中でも、婉子が一番可愛がっていた牝馬が仔馬を産んだと声を弾ませて言うのだった。
最近は執務に忙しくて馬場には足を向けていなかったが、仔馬と聞いて心が動いたのだ。
…それに…。
「ついでに遠乗りでもしてこい。明日は俺がお前の仕事を代行するから。
郁未、お前は最近働きすぎだ。
笙子も心配していたよ。
毎晩遅くまで学院に残っているとな」
生徒たちの見廻り最中に、鬼塚に声をかけられ苦笑いする。
「…僕は仕事以外、夢中になるものがないから…」
…仕事をしていれば、余計なことを考えなくても良い。
そう…清良のことも…。
「…高遠家の夜会で何があったか知らないが、とにかく気分転換してこい。
そんな顰めっ面ばかりしていたらお前の美貌が台無しだ」
郁未の頬を軽く摘む。
その眼鏡の奥の眼は、慈しみの色に満ちていた。
…鬼塚くんは、僕に気を遣ってくれているんだな…。
鬼塚は決して余計なことを言わないが、さり気なく気を配ってくる。
清良のことを、どうしろとも言わない。
郁未の気持ちを尊重してくれ、そして信じてくれているのだ。
…今はもう鬼塚への恋心は想い出に変わったが、やはり特別な存在だと改めて思う。
そのことをありがたく思いながら、郁未は微笑んだ。
「…分かったよ。明日、行ってくる」
「メリー・ウェザー号が仔馬を産んだのよ。
とても可愛いの。
郁未さん、ぜひ見にいらして」
婉子は無類の馬好きだ。
殆どの馬は、軍に徴用されてしまったが、密かに隠していた馬を最近になって東京にも移送しつつあった。
その中でも、婉子が一番可愛がっていた牝馬が仔馬を産んだと声を弾ませて言うのだった。
最近は執務に忙しくて馬場には足を向けていなかったが、仔馬と聞いて心が動いたのだ。
…それに…。
「ついでに遠乗りでもしてこい。明日は俺がお前の仕事を代行するから。
郁未、お前は最近働きすぎだ。
笙子も心配していたよ。
毎晩遅くまで学院に残っているとな」
生徒たちの見廻り最中に、鬼塚に声をかけられ苦笑いする。
「…僕は仕事以外、夢中になるものがないから…」
…仕事をしていれば、余計なことを考えなくても良い。
そう…清良のことも…。
「…高遠家の夜会で何があったか知らないが、とにかく気分転換してこい。
そんな顰めっ面ばかりしていたらお前の美貌が台無しだ」
郁未の頬を軽く摘む。
その眼鏡の奥の眼は、慈しみの色に満ちていた。
…鬼塚くんは、僕に気を遣ってくれているんだな…。
鬼塚は決して余計なことを言わないが、さり気なく気を配ってくる。
清良のことを、どうしろとも言わない。
郁未の気持ちを尊重してくれ、そして信じてくれているのだ。
…今はもう鬼塚への恋心は想い出に変わったが、やはり特別な存在だと改めて思う。
そのことをありがたく思いながら、郁未は微笑んだ。
「…分かったよ。明日、行ってくる」