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僕の美しいひと
第6章 すれ違う想い
中秋の馬場は空気が澄みきり、薄荷のような樹々の薫りに満ちていた。
気の早い落ち葉を踏みしめながら、郁未は厩舎に向かう。

馬場から少し離れた陽当たりの良い草地に、厩舎はある。
…戸口の前に脚を踏み入れた時、聞き覚えのある声が耳に入った。

「ほらほら、そんなに暴れないの。
林檎はまだあるからね」
…清良の声だ…。
思わず脚を止めた郁未の気配に気づいたのか、馬の柵の前にいた清良が振り返った。

「嵯峨先生!」

…清良は、柔らかなベージュの千鳥格子の短めの丈の乗馬ジャケットに、フリルの付いたブラウス、黒い細いリボンを蝶結びにしていた。
細く長い脚は黒い乗馬ズボンに包まれていて、黒い革の長ブーツを履いていた。

如何にも良家の子女の乗馬姿らしいその服装は、清良に大層似合っていた。

…着実に彼女が品格を備えた淑女として成長しているのが分かり、郁未は思わず微笑んだ。

「…清良。ご機嫌よう」
乗馬帽の鍔に軽く触れ挨拶をした郁未に、清良は素早く立ち上がり、軽く膝を折ってお辞儀をした。
「ご機嫌よう、嵯峨先生」

清良の黒瑪瑙のように深くしっとりとした瞳が、郁未を嬉しげに見つめる。
そうして、声を弾ませて尋ねた。

「この仔馬、嵯峨先生のおうちの馬なのでしょう?」
清良の肩越しにまだ幼い栗毛の仔馬が顔を覗かせる。
郁未は思わず破顔した。
「ああ、そうだよ。母の馬だけれどね。
…ああ、毛艶もいいし、脚も太くてしっかりしている。
これは良い馬だ」
近づいて仔馬の鼻面を撫でてやる。
まだ、警戒心のない仔馬は、すぐに郁未に慣れて鼻面を擦り付けてきた。

「すごく、人懐っこいね」
いつもの喋り方になる清良を、郁未は咎めなかった。
…懐かしい、清良の口調だ…。
「ああ。愛嬌があるな。
これは、愛される馬になりそうだ」
二人は貌を見合わせて笑った。
郁未の胸が、白湯を飲んだ時のようにじんわりと温まった。
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