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僕の美しいひと
第6章 すれ違う想い
「…原嶋様…」
清良が息を呑んだ。
…原嶋哲也は、ゆっくりとこちらに歩いて来た。
黒い乗馬服の正装は、逞しい体躯をした原嶋に良く似合っていた。
郁未は素早く清良の身体を離した。
原嶋は和かな表情のまま、二人に近づく。
そしてシルクハットの正式な乗馬帽の鍔に手を遣り、郁未に恭しく目礼をした。
「嵯峨様、またお目にかかりましたね。
お会い出来て光栄です」
…二人の口づけを、見ていない筈はない。
郁未は原嶋の心中を図りかねた。
「ご機嫌よう。原嶋さん」
硬い表情のまま挨拶を返す。
「偶然ですね。
私はこれから清良さんと遠乗りにご一緒するのですよ。
…初めての遠乗りを、ようやく承諾していただけた…」
野性味溢れる原嶋の濃い眼差しが、愛おしげに清良を見つめる。
清良が何か言いたげに郁未を見上げる。
その切なげな潤んだ眼差しを振り切るように、原嶋を振り返り微笑む。
「それは良いですね。今日はまさに遠乗り日和だ。
お二人で楽しんでいらしてください」
「嵯峨先生…!」
小さく叫んだ清良を、原嶋は優しく見遣り、
「…嵯峨様もよろしければ、ご一緒しませんか?」
朗らかに声をかけて来た。
「…清良さんはどうやら貴方がいらした方がお喜びになりそうだ」
言葉の端に僅かながらの冷ややかな毒を感じ取る。
「いいえ。結構です」
乗馬用の手袋を付けながら淡々と答える。
「…私は母の仔馬を見に来ただけですので…。
それでは、失礼いたします。
ご機嫌よう、原嶋さん。…清良さん」
去り際の郁未の背中に、清良の声が追い縋る。
「嵯峨先生!」
心を鬼にして、厩舎を後にする。
…からりと晴れた秋の風が、頬を打つ。
郁未は、厩舎を振り返ることなくひたすらに歩き続けた。
先程まであった筈の手の中の清良の温もりは、風の中に跡形もなく消えていった…。
清良が息を呑んだ。
…原嶋哲也は、ゆっくりとこちらに歩いて来た。
黒い乗馬服の正装は、逞しい体躯をした原嶋に良く似合っていた。
郁未は素早く清良の身体を離した。
原嶋は和かな表情のまま、二人に近づく。
そしてシルクハットの正式な乗馬帽の鍔に手を遣り、郁未に恭しく目礼をした。
「嵯峨様、またお目にかかりましたね。
お会い出来て光栄です」
…二人の口づけを、見ていない筈はない。
郁未は原嶋の心中を図りかねた。
「ご機嫌よう。原嶋さん」
硬い表情のまま挨拶を返す。
「偶然ですね。
私はこれから清良さんと遠乗りにご一緒するのですよ。
…初めての遠乗りを、ようやく承諾していただけた…」
野性味溢れる原嶋の濃い眼差しが、愛おしげに清良を見つめる。
清良が何か言いたげに郁未を見上げる。
その切なげな潤んだ眼差しを振り切るように、原嶋を振り返り微笑む。
「それは良いですね。今日はまさに遠乗り日和だ。
お二人で楽しんでいらしてください」
「嵯峨先生…!」
小さく叫んだ清良を、原嶋は優しく見遣り、
「…嵯峨様もよろしければ、ご一緒しませんか?」
朗らかに声をかけて来た。
「…清良さんはどうやら貴方がいらした方がお喜びになりそうだ」
言葉の端に僅かながらの冷ややかな毒を感じ取る。
「いいえ。結構です」
乗馬用の手袋を付けながら淡々と答える。
「…私は母の仔馬を見に来ただけですので…。
それでは、失礼いたします。
ご機嫌よう、原嶋さん。…清良さん」
去り際の郁未の背中に、清良の声が追い縋る。
「嵯峨先生!」
心を鬼にして、厩舎を後にする。
…からりと晴れた秋の風が、頬を打つ。
郁未は、厩舎を振り返ることなくひたすらに歩き続けた。
先程まであった筈の手の中の清良の温もりは、風の中に跡形もなく消えていった…。