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僕の美しいひと
第6章 すれ違う想い
…そうして数日後、郁未は思いがけぬ来訪者を迎えることになった。
鬼塚の案内で院長室に現れた原嶋に思わず眼を見開く。
「…原嶋さん」
「こんにちは。突然お伺いいたしまして、申し訳ありません」
少しも恐縮した様子もなく、原嶋は舶来品と思しきソフト帽を取った。
訝しげな表情のままの鬼塚に目で合図し
「梅さんにお茶を頼んでくれ」
言伝る。
鬼塚は無言で部屋を出た。
「お構いなく。すぐに失礼いたしますから。
私はかねがね慈善事業に関心がありましてね。
貴方の学院に大変興味を持っていたのですよ」
周りを見渡し、大袈裟に首を振る。
「…実に素晴らしい学院だ。とても孤児が学ぶ学校には見えない。
…私がいたところに比べたら、天国のようだ。
ここの生徒は幸せですね。
貴方の慈愛を受けられて…」
「…え?」
原嶋は勧められたソファに鷹揚に座り、長い脚をゆったりと組んだ。
上質なスーツの上着の内ポケットから銀のシガレットケースと燐寸を取り出す。
西洋煙草を一本口の端に咥え、器用に話し出す。
「私も孤児院育ちですよ。…もっとも口減らしで親に捨てられたクチですがね。
…いや…思い出しても身の毛がよだつような酷い場所でした…。
地獄があるならば、あんな場所かな…」
磨き上げられた高価な黒革の靴の踵で燐寸を擦り、煙草に火を点ける。
男の彫りの深い貌に、濃い陰翳が浮かび上がった。
鬼塚の案内で院長室に現れた原嶋に思わず眼を見開く。
「…原嶋さん」
「こんにちは。突然お伺いいたしまして、申し訳ありません」
少しも恐縮した様子もなく、原嶋は舶来品と思しきソフト帽を取った。
訝しげな表情のままの鬼塚に目で合図し
「梅さんにお茶を頼んでくれ」
言伝る。
鬼塚は無言で部屋を出た。
「お構いなく。すぐに失礼いたしますから。
私はかねがね慈善事業に関心がありましてね。
貴方の学院に大変興味を持っていたのですよ」
周りを見渡し、大袈裟に首を振る。
「…実に素晴らしい学院だ。とても孤児が学ぶ学校には見えない。
…私がいたところに比べたら、天国のようだ。
ここの生徒は幸せですね。
貴方の慈愛を受けられて…」
「…え?」
原嶋は勧められたソファに鷹揚に座り、長い脚をゆったりと組んだ。
上質なスーツの上着の内ポケットから銀のシガレットケースと燐寸を取り出す。
西洋煙草を一本口の端に咥え、器用に話し出す。
「私も孤児院育ちですよ。…もっとも口減らしで親に捨てられたクチですがね。
…いや…思い出しても身の毛がよだつような酷い場所でした…。
地獄があるならば、あんな場所かな…」
磨き上げられた高価な黒革の靴の踵で燐寸を擦り、煙草に火を点ける。
男の彫りの深い貌に、濃い陰翳が浮かび上がった。