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ガーネット弐番館
第11章 令和婚
数ヶ月前、睦美はスーパーの試食コーナーのおばちゃんに、
「奥さん、お味見いかが?」
とウィンナーを差し出された。

まあ、確かに。そう呼ばれてもおかしくない年齢だし。

引越して来たばりの頃だったから疲れてげっそりしていて、元々老け顔なのが増していたからかもしれない。

でも密かにショックだった。

「...奥さん」

本当に失礼しちゃう。

パッと見の年齢で判断したのか。

“くたびれ”感で判断したのか。

「ねえ、そこの奥さん」

呼ばれたからって振り返ってなるものか。

だいたい、「お客さん」て呼べばいいのにさ。

「...俺の可愛い奥さん。起きて」

俺の??

可愛い???

がばっと起き上がる。

「おっ、やっと起きた」

「...おはよ」

奥さんと呼んだのは、航平だったのか。

「おはよ。もう起きないと間に合わないぞ」

シャツを羽織りながら立ち上がった航平が、居間にもどってゆく。

「コーヒー入れたよ」

「うん...」

いつもなら睦美がコーヒーを入れるのだが、少し寝過ごしてしまった。

「今日は走らないの?」

「走ってきたよ。30分ぐらいだけ」

いつも同じ頃に起きて、睦美は仕事に、航平は近所を1時間ほどランニングするのが日課になりつつある。

今日もその時に起こしてくれたらい。
全く気づかなかった。

今日は食事会といいつつ、ほぼ披露宴を行う。

航平は、ランチタイムは通常通り仕事になるが。
ランチが終わると、そっちの準備に移行する。

睦美は、メイクやらヘアセットやらで、早めに現地入りしなければならない。

一緒に向かおうということになっていた。

「奥さん...」

になったんだ。

そうだ、昨夜婚姻届を出してきた。

「ほら、コーヒー」

マグを差し出される。
牛乳は自分で入れなきゃと、冷蔵庫の前で受け取る。

「大丈夫か?」

「うん...」

てきぱきと朝食の準備を始める航平に、後ろから抱きついた。

「うおっ、ちょ、...びっくりした」

落としそうになったトーストを、カウンターの皿の上に置いている。
背中に睦美をくっつけたまま。

「何?どした?」

「実感するかな、と思って」

抱きつく腕に、ぎゅっと力を込める。
 
「今日は嫌というほど実感するよ」

そうだね。お披露目会だもの。
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