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ガーネット弐番館
第11章 令和婚
「ベタ惚れ、ね」

今日まで何度も愛し合って、航平からの愛は身をもって知っているのだけど。

そこまで愛されるほど自分に価値があるのか、自信が今一つ持てていない。

さっき航平が言ったみたいに、自己評価が低いのだろう。


「ん?」

「...」

航平が今までの人たちみたいに「やっぱ違ってた」って、去って行くのを想像してしまう。

今からそんな事を考えたって仕方ないのに。


「大丈夫だよ」

信号で止まった航平の手が、睦美の手を握ってくる。

手が重なって初めて、自分の手が小さく震えていたことに気付く。

何でこんなに、ナーバスになってるのだろう。

航平の手が暖かい。

信号が変わって走り出したけど、手は繋いだままだ。

「睦美がそばに居てくれるだけで、なんだか俺は無敵になれてる気がするんだ」

少しの沈黙の後、唐突に航平が話し出した。

「む、無敵?」

「そ。上手く言えないけど、そんな感じ」

今まで、家というものは必要最低限の荷物があって、体を休む為に仕方なく帰る場所だった。
所詮数時間眠るためだけ。
居心地なんて関係ない。どうせまたすぐ転勤になる。

でも今は、睦美があのアパートで待っててくれる。
そう考えると、早く会いたい。帰りたい。
ご飯を食べて、お酒を飲んで。
なんでもないことを話して。
ぎゅうっとして。
そして、めいっぱい愛し合う。

そんな日をこれからずっと、一生続けたい。

そんな風に思えたのは初めてで。
それまであまり考えてこなかった結婚ってこれか、と気づいた。

「え、...いつ?」

「初めてアパート泊まった日の朝、ランニングしてて。
いつの間にか婚約者になってたけど、それっていいかもって」

早っ!

再会して、まだ丸一日も経ってない。

「俺も驚いた」

結婚するんだと思うと、アパートで過ごすのが日を増して楽しくなった。

確かに、毎日楽しそうだった。
婚約ごっこをからかってるんだとばかり思ってたけど。

「睦美は?楽しくない??」

「楽しい...」

ここの所、準備で忙しくて忘れてたけど。
航平とお酒を飲んで、笑えない冗談に振り回されて、肌を重ねて一緒に眠る。
楽しかった。
なんで航平が居座ってんだろうと思いつつ、帰って欲しくなかった。
一生続けばいいのにと思った。

「睦美も俺にベタ惚れじゃん」
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