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ガーネット弐番館
第3章 熱
「ん」

相変わらず無表情で、黙々とふきんで皿を拭き、棚に戻している。

なにこの完璧具合。

いつもよりキッチンが綺麗な気さえするんですけど。

「ゴミとか適当だから、みて」

「分かった」

狭いキッチンで2人並んで静かに作業する。

ほんと変なカンジ。

「悪いな。SVの仕事柄、ついクセで片付けちゃうんだよな」

航平の仕事は、正式には「スーパーバイザー」略して「SV」と呼ぶもので。
知らない人に説明するのに「マネージャー」と分かりやすくしているらしい。

SVは、担当した店の経営などに携わり、ほとんどがお店の建て直しなどを行う。
が、普段はチェックも兼ねて、スタッフとして配膳から清掃まで一緒になって働き、目を光らせている。
そのせいか、片付いていないと落ち着かないらしい。

「大変だね」

聞いてるだけでも大変そうな仕事だ。
睦美なら、きっと1年も続かない。

この部屋の綺麗さも、物を増やさないようにして、やっと保っているぐらいだ。

「終わった?」

「うん。助かった。ありがと」

1人で片付けていたら、相当時間がかかっただろう。

「よし、寝よーぜ」

こんなに片付けとかしてくれた航平に、コタツで寝ろとは言いづらい。

「...うん」

とりあえず四畳半の襖を開ける。
つめたい空気が、暖かった部屋になだれ込む。
すっごく寒そうで、この部屋にはあまり入りたくないけど。

「何してんの?」

「布団、あるはずなんだよね」

手前に置きまくっているダンボールや紙袋なんかを押しのけて、奥に進もうとする。
いっつも手前ばかりに置いて、奥は広いはずなのに。

「は?なんで?一緒に寝りゃいいだろ」

また当然のようにそう言われて驚いたのと、何かを踏んずけて、体のバランスをくずす。

「きゃ」「っと!」

航平に体を支えられて、なんとか倒れずにすんだ。

「...ごめん」

「ったく」

そう呟いたかと思っていたら、睦美の体がぐらりと持ち上げられた。

「ひゃっ、何。ちょっ...えっ」

これが、かの有名なお姫様抱っこだと気づくのに時間がかかった。

「寝るぞ」

何なになにー。

心臓がバクバクのまま、布団に寝かせられる。


まさか。

まさかの、もう1回??


ちょっとお酒が完璧に抜けた、今度こそ心臓がもたないー。

「はい。もうちょっと奥に詰めて」
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