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ガーネット弐番館
第7章 unusual
「まだ時間あったのに」

居座りたがる航平を無理矢理連れて、逃げるようにお店を出た。

すっかり暗がりになった夜の街が、体温の上がった体を一気に冷やす。

人混みの中、航平の腕を掴んでぐんぐん歩いて、お店がようやく見えなくなる位置まで来てお腹の底から一息つく。

「...寿命が縮んだ」

10年は縮んだと思う。

航平は、眉間に軽く皺を寄せ変な顔をしている。

「自分が行きたいって」

ああ、言ったさ。言ったとも。

だけどそれは、売り言葉に買い言葉というか...。

反論したいけど、ぐったり疲れたし、ノドも渇いたし、全く言葉が出てこない。

人通りも多いし、とりあえずなんとか歩いてどこか...。

「ん。こっち」

航平が止めたタクシーに乗り、とあるビルに向かった。
そこからビルの地下へと進んでいく。


「まだ少し早いけどな」

そう言いながら、おしゃれな雰囲気のお店ののれんをくぐった。

照明がぐぐっと落ち着いた、こじんまりとした小料理屋さんだ。
厨房の前はカウンターになっていて、簡単に仕切った個室がいくつか見える。
店内はほぼ満席で、厨房は優雅に動いてはいるが忙しそうだ。

お店の人に航平が話し、予約より少し早かったが通してもらえた。

2人横に並んで座るテーブルと椅子があって、睦美は奥へ通される。
手前の航平の椅子の横には、引き戸がちょこっとついていて、閉めると凄く狭いが一応個室になる。
密着度が半端ないが、都会ならではの店構えなのだろうと納得する。


とりあえず、飲み物。

さっきからノドが渇いて仕方ない。

睦美の好きな珍しい銘柄のお酒が置いてあって、迷わずそれを冷酒で頂くことにする。
お料理はお任せで出てくるという。
航平がいつも通り注文してくれているので、安心して一息つく。

ほんっっっと疲れた。

おしぼりで手を拭くのも、指が震えている気がする。

「そんな疲れた?」

涼しい顔の航平に腹が立つ。

お酒と一緒に、"八寸"だろうか。
ちょっとした盛り合わせが運ばれてきた。
春が近いからか、とても可愛らしくて食べるのが勿体ない。

とりあえず、無言で乾杯。

航平が何か言いたそうだったが、気付かないフリだ。

乾いたノドに、上質なお酒が沁みる。

「...くぅ」

おっさんみたいに声が出た。
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