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MILK&honey
第17章 「ありがとう、お世話になりました。」

 エレベーターに乗って、涙を拭いて、鼻をかむ。中の壁の鏡で顔を見たら、目よりも鼻が赤いのが気になった。
 鼻が目立たないように、鞄からマスクを出してかけた。
 黒田さんからかーさんに、私が泣いてたとか言われちゃったら、困るから。

「お帰りですか?」
「……はい。ちょっと、用事が」

 黒田さんに、マスクの中でもごもごご挨拶しながら頭を下げて、胸の中で、お世話になりました、って言う。
 もう、ここには来ないから。

 かーさんちだけじゃなく、お兄ちゃんちにも、来ない。
 受験の山場だから忙しいって言えば、お兄ちゃんは「そうか」で話が終わる。
 誰かみたいに「そうなの?そっかー、残念……しばらく淋しくなっちゃうなー。受験終わったらまたおいでね?」とか、言って来ない。

 それが終わったら、卒業まで忙しいから。
 その次は、入学で。
 その後は、学校が忙しいって言えば、あっと言う間に時間なんて過ぎる。
 そんなに会わなかったら、かーさんだって私のことなんか、あっという間に忘れるよ。

 ……私は、忘れないけど。
  
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