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MILK&honey
第7章 遠慮しないで、ウチにおいで

   *

「トマト……」
「うん、トマトだね……」

 冷蔵庫には、トマトが有った。
 っていうか、トマトしか無かった。
 あとは、牛乳と、濃縮紅茶と、花梨の蜂蜜漬けと、ビールと、ビールと、ビールと、ビール。それと、各種調味料。
 忘れてたけど、今日の夕方まで実家に帰ってたんだった。

「ごめん……トマトしか入ってなくってごめん……ろくなもんじゃ無いにも程が有り過ぎてごめん……」
「……お米とか、麺とかは?」
「米は有る。でも、炊いてない。あとはスパゲティと、インスタントラーメンが有る」

 ラーメン食うとしても、せめて卵くらい無いとなあ。るりちゃんと二人で初めて食う飯が、素ラーメンなんて……情けなさすぎて泣ける。

「……これは?」
「あー……誰かがどっか行ってきた、土産……。」

 るりちゃんが指差したのは、ケチャップとかソースとかマヨネーズの間に入ってた、オリーブオイルにスパイスを漬けた、小洒落た標本みたいな瓶だった。

「お塩、有りますか?」
「有るよ。塩も砂糖も醤油も有るよ」

 あと、酒もね。調味料じゃないけどね。

「お鍋とフライパンと、お塩、貸してください」

 そう言うとるりちゃんは、スカートのポケットから黒いゴムを出して、髪をきゅっとまとめた。
 一つ結びの、凛々しいるりちゃん……!
 拝みたい……いや、拝む前に塩出さなきゃ……。

 俺が心で拝んでる間に、るりちゃんは冷蔵庫からトマトと謎の標本オイルを出して、鍋にお湯を沸かし始めた。

「お箸……出来れば、菜箸も……あと、包丁、有りますか?」
「有ります!まな板も有ります!!」

 トマトに切れ込みを入れて、湧いたお湯に入れる。魔法の様に、次々とトマトの皮を向いていく。

「おおお……つるっと……!!」
「ふふ。湯剥きって言うんですよ」

 剥けたトマトを切りながら、るりちゃんが湯気の中で得意気にそう言って笑う。
 ……いい……すげー、いい……!!
 一生こんな風にしてられたら、他に何にもいらねーなあ……。

 るりちゃんはその可愛さで俺の頭を茹で上げながら、鍋ではスパゲティを茹で、トマトをフライパンに入れてオリーブオイルをくるっと回しかけ、塩も入れた。
 それから、茹で上がったスパゲティの湯を切ってフライパンの中に全部入れ、ざくざく混ぜた。
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