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MILK&honey
第9章 ご飯にしますか?お風呂にしますか?
*
「どうぞ、お兄ちゃん」
「ありがとう、るり」
来客は予想通り、るりちゃんの兄貴の巧だった。都合が着いたから、るりちゃんをウチに迎えに来たのだ。
るりちゃんをウチに泊める事は、出来ない。俺は泊めても良いんだけど、そこまでは巧が許さない。だから、こうして巧が迎えに来る。それが無理な日は、家に帰せるぎりぎりの時間に、るりちゃんをタクシーで帰らせている。
家に帰らなきゃいけない日には、るりちゃんは渋々帰って行く。そんな様子のるりちゃんをタクシーに乗せて見送るのは、毎回大変心苦しい。
別に、泊めても良いんだけどなー。
変なことなんか、しないし……ってか、出来ねーし。
変なことは、しないけど……朔んちでこないだ見掛けた様な、ふわっふわの綿菓子みたいな部屋着とか、着てみて欲しい……あれ着たるりちゃんに「おはよう」って言われたり、エプロンして朝ご飯作ってくれたりしたら、俺は朝から昇天し
「どうぞ、かーさん」
「……ありがと、るりちゃん」
るりちゃんに呼ばれて、妄想から現実に戻った。
お茶とくず餅を俺の前に置いてにっこりしてくれるのに、つられてにっこりしてしまう。
「ご相伴にあずかって悪いな、『かーさん』」
「……『遠慮なく召し上がって、タクちゃん』」
かーさんと呼ぶ時に既に含み笑いをしていた巧は橋本さんの真似に吹き出して、くず餅のきなこを、テーブルに吹き飛ばしやがった。
*
るりちゃんが思い付いた俺の呼び名、「かーさん」。
呼ばれると男心がそこはかとなく凹むこの名前には、思いも寄らぬ効果が有った。
トマトのスパゲッティを食べたあの日、不機嫌顔で戻ってきた巧が、るりちゃんが俺をかーさんかーさん呼ぶのを聞いて、今みたいに吹き出したのだ。
「……るりが言い出したのか?それ」
「そう!ひかるさんひかるさんひかさんひかーさん、かーさん!」
吹き出したあと笑いを堪えながら聞いた巧に、るりちゃんは得意気に答えた。
巧が笑ってる理由が、るりちゃんには良く分かってねーんだよな……理由が分かる位なら、そもそも「かーさん」とは呼ばなかっただろう。
「悪い……別に、おかしいとは思って無……」
巧は笑いで声を震わせつつ、きょとんとしてるるりちゃんにではなく、俺に向かってそう言った。