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人工快楽
第1章 香苗と真央
 例えば、生物が生存の為の糧を得ることと、自らの遺伝子を残す為の繁殖を生命の目的にするのと同じだ。

 そこに他の理由や思考は存在しない。

 自らの生に忠実なだけ。

 お母様にとっては物事の起点などどうでも良かった。

 結果に至る快楽が絶頂に結びつくことのみを求める命。

 進化の過程で脳と身体には痛覚自体が存在せず、遺伝子そのものから快楽神経を有した個体。

 それがお母様。

 調教の結果ではなく、資質でもない。

 創造されることなく存在してしまった快楽生命体。

 人が生命活動を維持するために、無意識に呼吸をするのと同義。

 霧島祐介には絶対に理解出来ない。

 お母様から排泄された生命であるわたしだけが、お母様を理解できる。

 わたし以外に理解できてたまるものか。

 わたしの身体の血も細胞も器官も肉体も全てお母様と同一なら良かったのに。

 快楽以外の意志や思考なんて持たない肉塊だったらよかったのに。

 半分でも霧島祐介の血が入っているのが嫌でしょうがない。

 その血のせいで、快楽を求めながら思考の限界が人間に留まっている自分が許せない。

 こんなにもくだらなく卑小で濁りきった血。

 お母様を理解出来ずに捨てた男の血なんていらないのに。

 わたしは父である霧島祐介のことを心の底から嫌い、軽蔑した。
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