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人工快楽
第2章 真央と香苗
 精神病院の医師や看護師ですら欺けたなら、わたしの演技も大したものだ。

 彼らはお母様の容態につても話すようになっていた。

 眼球が垂れ下がり、身体の至る所にある傷などから重症と診断されたお母様には緊急手術が施されていた。
 
 医師の話によれば、自傷自慰の影響で、傷口の化膿や出血量が原因とする生命の危険があったそうだが、一命は取り留めたと言う。

 ただ、弄り続けて腐りかけだったらしい左の眼球は切除されてしまったそうだ。

 可哀想なお母様。

 あんなに好きだった左目の眼球自慰が出来ないなんて。

 でも、まだ右目があるわ。

 きっと気が付いたら喜ぶでしょうね。

 医師に、お母様に合わせて欲しいとお願いしてみたが、手術は成功したが意識がまだ戻っていないために別病棟の特別室で治療中だから、まだ面会は難しいと言った。

 それが本当でも嘘でも、お母様に会いたいという気持ちが日増しに強く膨らんでいくばかりだった。

 そんなある日、思いもかけずお母様との面会が許された。

 意識は戻らないままだが容態が安定してきたので少しの時間だけならと、担当の看護師が手配してくれていた。

 看護師の付き添いのもと、案内された病棟の入り口に立ってみて驚いた。

 何という厳重な作りなのだろう。

 これではまるで牢獄だ。

 鍵が三重に付けられた鉄製の分厚い扉が二メートル間隔で二枚設置され、重々しく完全に内と外を隔てている。

 その扉は、たとえ医者や看護師といえども、許可を得た上で警備員の手によってでしか開錠できない規則になっているようだ。

 扉の前に立たされてから、看護師が何枚かの書類にサインをして警備員が電話で何やら確認を取ってと、一寸だけ時間が掛かった。

 やがて通された通路には、外界と隔てられた十の病室があって、その一番奥の特別隔離病室にお母様は隔離されていた。

 長くはない病室までの通路を歩いてゆく間に、それぞれの部屋から聞こえてくる音達に少し苛立った。

 壁を殴りつけているような鈍い音、ベットを揺すっているようながちゃがちゃという金属の音、意味の分からない呻き声と絶叫。

 こんな奴らに混ざってお母様は隔離されている。

 ふざけるのもいい加減にして。

 お母様をこんなやつらと一緒にするなんて許せない。

 一刻も早く助け出さなくては。
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