この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕
「ハル?」
直輝が肩を揺する。
「なんです?」
「ボーッとしてっから」
目の前から海が消える。
記憶が引いていく。
「……海か」
「あ?」
「僕が勝ったら交通費を出してください。海まで往復切符で」
「は? なんで海。つか賭け乗るのか」
「貴方は何を懸けるんです?」
ヘレンが歩き出す。
二人も追うように踏み出した。
「じゃあ……」
駅に着く。
ふと横を見ると鏡の前で髪を直す少女が目に入った。
鏡越しに目が合う。
少女は満面の笑顔を見せていなくなった。
残された自分の姿に焦点を移す。
久谷ハル。
お前はいつになったら死ぬんだ。
なんのために生きている。
紫の煙が鏡の面を這う。
スッと顔を前に向ける。
カツカツ。
この足音だけは確かに足元から響いてる。
それでいい。