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道化師は啼かない
第3章 死体越しの再会
 駅から出た途端に焼きつく熱気が肌を襲う。
 あっつ……
 眼の上に翳した手が硬直する。
 広場が見えない。
 見えない。
 煙に隠れて。
 一瞬前まで視界を覆った太陽は、見上げたって輪郭さえ。
 寒い。
 指先から凍っていくような。
 麻痺していくような。
「どうにかしてよ……っ道化」
 焦りが思考を邪魔する。
「あ……あああっ」
 耳を劈く悲鳴。
 最初に観たのは誰だった?
 瞬き二回でウソみたいに晴れた視界といつもの広場。
 鐘が鳴る。
 大勢の通行人と飛び立つ鳩の群れと雲一つない青空に。
 鐘が鳴る。
 鳴り響く。
 知ってる。
 ここの市長が寄贈した二メートル大の時計台。
 その針は十二時十五分を指して。
 なんで。
 ギギと金切り音を立てて。
 観音開きに中を晒す柱。
 ハープを抱えた女性像が回りながら演奏をするんだ。
 そう、話題だったんだ。
 赤い色なんて、悪趣味な柱の側面にさえ使ってないはずなのに。
「きゃぁああっ」
 一人の叫びが連鎖して、昼下がりの駅前が騒然とする。
 鮮やかすぎて認識されない赤い液体。
 ボタリと地面に落ちた頭。
 中の歯車に引っかけてあったんだろう。
 ゴロゴロと転がって真ん中に。
 髪の毛が放射状に煉瓦のタイルに広がる。
 それはさっき見た……
 脚が震える。
 体はどこに。
 鐘が鳴る。
 ハープの音色と共に。
 眼を上げなきゃよかった。
 映ったのはキリストの磔よろしく手を掲げた頭の無い死体。
 ハープに腕を乗せて、制服を着たマネキンのように。
 女性像を覆うように。
 傷一つない四肢に、コサージュみたいな朱。
 胸にだけ。
 初めて見た、息のしない体はただただ気持ち悪くて。
 自然と円を描いた観衆達。
 乾いた舌が痙攣する。
「ハ……ル」

 道化が捕らえた視点に立つ男。

 円の向こう岸。
 死体を隔てて向こう岸。
 サラサラと風が黒髪を揺らす。
 その中に見えた、今まで私を包んでいた色。
 紫の瞳。
 男は騒ぎをけだるそうに眺め、それから私を見つけた。
 ふっと表情が消える。
 そして、何かを呟いた。
 ぞくり。
 なに。
 腕が引き攣る。
 なにを言ったの。
「死ねないわよ……あんたが馬鹿やってる限りは」
 ああ。
 姉が弟を叱責する。
 静かな怒りと。
 絶望と。
 呆れと。
 
 あと……
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