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道化師は啼かない
第6章 不協和音
「ハルの次はお前か」
あの日マスターは寂しげに言った。
その一年前に喫茶店の上階から廃ビルに引っ越したハルを指して言ったのだとすぐにわかった。
「どこに住む気だ?」
「二年前の依頼主が人が死んだとこに住むのがいやだって処理をボクに任してくれてたんだ。アパートの一室なんだけどさ、今のボクなら家賃払っても余裕かなって」
「十二で一人暮らし、ね」
もうマスターは承諾したようなものだった。
「胡桃には伝えたのか?」
「……うん」
「そうか。秘密に出ていくのか」
「マスターってすぐに嘘がわかるよねー」
「何年の付き合いだと思ってる」
「ふふ。ボクはもう姉さんと同じ会話ができなくなっちゃったよ、マスター。同じ温度で穏やかに楽しく話す方法を忘れちゃったんだ」
あまりに違いすぎる世界。
思春期を経るにつれて芽生えてくる異常な感情。
それを押し返すような胡桃の父を殺したという罪悪感の塊。
あのころは必死だったけど、今考えたらよく一緒に過ごせたものだと思った。
もちろんあの夜から関係は一変した。
漫画を買ってくることはなくなって、どんどん日焼けし色あせていった。
学校を辞めて毎日二十四時間喫茶店で過ごす胡桃は次第に人と接することに前より関心を失っていき、相対的に蕗に対しての執着が大きくなっていった。
それをお互いが感じ、ギクシャクとした居心地の良くない空気がいつも流れていた。
「嘘でも笑ってようと思ったんだけどさ。マスター、なんで子供って親に似るんだろうね」
「自分の顔が嫌いか?」
「だいっきらい」
ハルは相変わらず喫茶店に通っている。
それが時々羨ましくなる。
けど、行ったらもう最後だ。
もう戻れない。
あそこで甘えてしまうことをこの歳で覚えたら抜け出すなんて出来ない。
今みたいに怒りだけで仕事を行うなんて……
「マスターはなんでボクを拾ったの?」
「ん? ああ、捨てられた猫みたいに世界を憎んで歩いている姿が見ていられなかったからだ」
「ボク、ネコ?」
「はははっ。同じようなもんだ」
あの日マスターは寂しげに言った。
その一年前に喫茶店の上階から廃ビルに引っ越したハルを指して言ったのだとすぐにわかった。
「どこに住む気だ?」
「二年前の依頼主が人が死んだとこに住むのがいやだって処理をボクに任してくれてたんだ。アパートの一室なんだけどさ、今のボクなら家賃払っても余裕かなって」
「十二で一人暮らし、ね」
もうマスターは承諾したようなものだった。
「胡桃には伝えたのか?」
「……うん」
「そうか。秘密に出ていくのか」
「マスターってすぐに嘘がわかるよねー」
「何年の付き合いだと思ってる」
「ふふ。ボクはもう姉さんと同じ会話ができなくなっちゃったよ、マスター。同じ温度で穏やかに楽しく話す方法を忘れちゃったんだ」
あまりに違いすぎる世界。
思春期を経るにつれて芽生えてくる異常な感情。
それを押し返すような胡桃の父を殺したという罪悪感の塊。
あのころは必死だったけど、今考えたらよく一緒に過ごせたものだと思った。
もちろんあの夜から関係は一変した。
漫画を買ってくることはなくなって、どんどん日焼けし色あせていった。
学校を辞めて毎日二十四時間喫茶店で過ごす胡桃は次第に人と接することに前より関心を失っていき、相対的に蕗に対しての執着が大きくなっていった。
それをお互いが感じ、ギクシャクとした居心地の良くない空気がいつも流れていた。
「嘘でも笑ってようと思ったんだけどさ。マスター、なんで子供って親に似るんだろうね」
「自分の顔が嫌いか?」
「だいっきらい」
ハルは相変わらず喫茶店に通っている。
それが時々羨ましくなる。
けど、行ったらもう最後だ。
もう戻れない。
あそこで甘えてしまうことをこの歳で覚えたら抜け出すなんて出来ない。
今みたいに怒りだけで仕事を行うなんて……
「マスターはなんでボクを拾ったの?」
「ん? ああ、捨てられた猫みたいに世界を憎んで歩いている姿が見ていられなかったからだ」
「ボク、ネコ?」
「はははっ。同じようなもんだ」