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道化師は啼かない
第6章 不協和音
「ボクね、昔おじさんみたいなくそ親父に輪姦されたことあるんだ」
 男の目が見開く。
 けど、この後が嫌なんだ。
 汚いものでも見るかのような嘲笑と侮蔑の色。
 この状況を忘れて自分を蔑む姿。
 見るに堪えない。
「狂ってやがる」
「ボクが? 狂ってんのはそっちだろ、仲間までよんでさ。いつもはてめえ一人で飲んだくれてるくせにそういうときだけ集まる屑共にボクを押さえつけさせて何回腹を殴れば気が済むのってくらい馬鹿みたいに同じこと繰り返してやり方も知らないで人の体を玩具みたいにぐっちゃぐちゃにしといて自分だけは正常のふり?」
 ギチギチと睾丸を踏み躙る。
 男の顔が苦痛に歪んで仰け反る。
「八年経ってもてめえが何回出したか、何回馬鹿みたいに痕付けたか全部教えてあげられるよ。根性焼きとか時代遅れも甚だしいもん背中に満遍なくやりやがってさ。酒が入ってたのが唯一の幸いだよね。起き上がれないてめえらのココ切り取るのなんて蟻を殺すよりも簡単だったもん」
 ナイフを喉から外して両手で握る。
 狂気を孕んだ蕗に男は抵抗をすることすらできなかった。
 振りかぶったナイフが自分の局部を突き刺すことをわかっていても。
「大丈夫。通常は一発で意識飛ぶから。痛みは一瞬。ボクにやった仕打ちに比べれば天国みたいな仕返しでしょ」
 その笑みは胡桃が守りたかった笑みとはかけ離れて。
 肉を貫く音は階下の依頼人にまで劈いた。
 リビングのテーブルで突っ伏し泣く元妻まで。

 三年前までは仕事が終わるとすぐに喫茶店に行って、胡桃の用意しているジュースとお菓子を食べて語り合うのが恒例だった。
 けれど今は自分と同年代の中学生が下校するのを眺めながらコンビニで買ったパンをかじりついて歩いている。
 ガードレールを見かけると飛び乗り、横断歩道では白線の上だけを。
 母がいた頃と同じように。
 胡桃と出歩いた頃と同じように。
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