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実業家お嬢様と鈍感従者
第3章 十六歳の誕生日

まずパブリックスクールの五年生で当時十七歳だったヘンリーを、強引に自分の近侍(バレット)にし、学校以外の全ての時間を自分との学習の時間に充てるよう強要した。
若くて遊びたい盛りであったろう彼は、それでも取り憑かれたように勉強を始めた彼女に何か感じるものがあったのか、泣き言も一切言わず熱心に取り組んでくれた。
アンジェラ達は今まで全く興味の無かった経済学、商学について独学で書籍から学び、父の知り合いのオクスフォード大学の教授を家庭教師として個人的に雇った。
本当は大学に通いたかったが、まず十歳と十七歳の自分達は年齢的にも満たなかったし、なにより女子に対して門戸を開く大学など、十九世紀のこの英国にはどこにも存在しなかったからだ。
領地の経営については、家令から過去の実績を出してもらい分析し、強みをさらに引き伸ばす為の準備期間とした。
三年間、試行錯誤で教養を身に付けた彼女達は、アンジェラが十三歳、ヘンリーが二十歳の時に父方の叔父バーナード卿を代表とした会社を設立し、実業家として歩み始める。
一つ目は、領地の地場産業である家具の製造販売業に着手した。
優れた家具職人を多数有する伯爵領は、品質がよくブランドとして一定の評価を頂いている。
その職人達の腕を借りて、新たにドールハウスファクトリーを立ち上げた。
既存のロンドンの店舗に加え、百貨店とも販路を締結し、上流階級の子女達に受け入れられた結果、着実に売り上げを伸ばした。
二つ目は、以前から目を付けていた経営不振に陥った証券会社を買収し、経営を立て直し、その頃目新しかった投資信託事業に着手した。
貴族である彼女は顧客の獲得には対して苦労しなかった。
代表取締役に据えた父方の叔父・バーナード卿の人脈の広さ、生まれ持った社交性・カリスマ性にも助けられ、自身で細々と株投資をしていた個人貴族投資家を募った。
そしてヘンリーの投資への先見の明も手伝い、気がつけば前年同比二百パーセントを達成した。
三つ目に証券会社から派生して、英国植民地ケイマン諸島を使ったタックス・ヘイブン(租税回避)の斡旋会社も創設した。
顧客は税率の低いケイマンにペーパー会社を設立し、そこで税申告することにより、本国の課税を間逃れることが出来た為、上流階級・中産階級の法人から絶大な支持を得て、今に至る。

