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実業家お嬢様と鈍感従者
第3章 十六歳の誕生日
「待って! やるわ。やらせてください……ただ……」
「ただ?」
「もし、実現できたら……私とヘンリーの結婚を許して下さる?」
父にとってヘンリーの祖父や父は、領地を維持する為に今や替えが効かない大切な人材であるのは分かっていた。
つまり父は、本当はヘンリーだけ追い出したいのだろう。
この契約がどれだけ実現困難なものなのかは、実際良く分かってはいなかったが、契約からもたらされる利点が父にとってのみ多すぎる気がして、アンジェラは言い募った。
「……ふむ」
アンジェラの申し出を苦々しそうな顔で聞いた父は、大理石のマントルピースに腕を持たれ掛けて考え込んだ。
「よかろう。ただし、条件がある」
「なに?」
静まり返った室内に、アンジェラがごくりとつばを飲み込む音が響いた。
「一つ目は、他の者にこの事は言ってはならない。勿論、ヘンリー本人にもだ」
「……分かりました」
彼女はしぶしぶ了承の意を示す。
「もう一つは――」
「十六歳の誕生日まで、ヘンリーに自分の気持ちを言ってはならないなんて……お父様、私の事が嫌いだったのかしら」
当時を思い出したアンジェラはがっくりとうなだれて、窓枠に手をついた。
そりゃあ、今となれば父の言いたいこともわかる。
彼女が早々にヘンリーと恋人になり、もし体の関係にまで発展してしまったら『契約』が達成できなかったとしても、彼女の結婚が台無しになってしまうからだろう。
だからアンジェラも当時は散々ごねたけれども、しぶしぶその条件をのんだのだ。
まあ、のまなければヘンリー達が首になるから、他の選択肢は無かった訳だけれども……。
でもその時は、まさかこんな状況に陥るなんて想像していなかったのだ。
(ヘンリーに恋人が出来るだなんて――!)
アンジェラはずっと「十六歳の誕生日にヘンリーに告白するんだ!」とそればかりを心の励みに、それこそ血を吐く思いで頑張ってきた。
父は『契約』に関して二つしか条件を出さなかったので、彼女は利用できる物は全て利用した。