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実業家お嬢様と鈍感従者
第13章 タイムリミット
咄嗟にヘンリーの抑えた手を除けて、部屋の光に当てるように顔を向けさせると、口元が赤黒く切れていた。
頬も少し腫れている。
「ちょっ! どうしたのこれ!」
「旦那様に殴られました」
恥ずかしそうに光から顔を背けるヘンリーの顔を両手で押さえると、アンジェラは「あんのタヌキ親父っ~! もう許さない!」と言って立ち上がろうとした。
しかし、彼が彼女の腕を取って止めさせた。
「お嬢様……。貴女を、お慕いしています」
いきなり口にされたヘンリーからの敬愛の言葉に、アンジェラは中腰のまま凍りつく。
「………へ……?」
思わず間抜けな声が出たアンジェラを、ヘンリーは手を引いて目の前に座りなおさせると、今度は彼女の双眸をしっかりと捉えて言い直した。
「旦那様に貴女との婚姻をご了承頂きました」
「………………」
(……今……何て……?)
「辞表を出して、お嬢様と結婚したいので許して下さいとお願いしたら、殴られたのです」
ヘンリーは照れたようにそう言って、顔を綻ばす。
「……ポ、ポーラはどうしたのよっ! 貴方結婚するって言ったじゃない!」
取り乱したアンジェラは、叫ぶように彼を問い詰めた。
「申し訳ありません。あれは……嘘を付いていたのです」
「知っているわよっ、そんなことっ!」
言い辛そうに嘘を打ち明けるヘンリーに対し、アンジェラは勢いのまま突っ込んだ。
「ええっ?」
「ヘンリーが付く嘘を、私が見抜けないわけないでしょ! ずっと貴方の事しか見ていないのよ、こっちはっ!」
もうここまできたら殆どやけくそである。
アンジェラは喧嘩でも吹っかけているのかと勘違いしそうになった。
「な……っ! では何故、私の事を諦めたのですか?」
ヘンリーは心底驚いているようだった。
「だって、それだけ私が嫌いなのだと思うじゃない! 嘘まで付いて私と一緒になりたくないのでしょうが!」
まるでアンジェラが引いたのが悪いみたいな言われ用に、ムッとして言い返す。
「そんなこと!」
「大体、元彼女を嘘に使わないでよ! 私は貴方がポーラと付き合っていた事実だけでも、気が狂いそうなほど嫉妬したのに!」
「嫉妬……、してくれたのですか?」
思いがけずヘンリーの頬が嬉しそうに綻んだのを見て、アンジェラは恥ずかしい事を暴露してしまったことに気がついた。