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実業家お嬢様と鈍感従者
第13章 タイムリミット
「しない訳ないでしょ! もうヘンリーの馬鹿!」
「……確かにポーラとは数ヶ月お付き合いをしていましたが、分かれてからほぼ一年半は経っています。ですので結婚の仕様がありません」
まっすぐに彼女の目を見て真摯に答えてくれる彼の様子から、本当のことなのだと分かった。
「………」
「本当に申し訳ありません。主に嘘を付くなど、従者失格です」
ヘンリーは神妙に頭を下げたが、しかし直ぐ顔を上げて少し不服そうにアンジェラを見た。
「でも、お嬢様だって悪いのですよ? あんな可愛い求愛を毎日される私の身にもなってください。もう毎日嬉しいやら苦しいやらで……どれだけ私が理性を保つのに大変だったか!」
「そ、それって……私の責任?」
なんだか理不尽なことを言われている気がして、アンジェラは恐る恐る抵抗してみる。
「そうですよ、お嬢様が可愛い過ぎるのがいけないのです。もう、毎日『食べちゃうぞ』と心の中で貴女を脅していました」
「……た……食べちゃうって……!」
何を言われているのか分かったアンジェラは、赤くなって頬に手をやった。
「赤くなったり青くなったり、忙しい人ですね、アンジーは」
随分長い間忠実な僕(しもべ)の顔しか見せてくれなかったヘンリーの、昔の悪戯っ子の顔にぎゅっと心が締め付けられる。
「も、もう、意地悪してばっかり!」
頬を膨らましてそっぽを向いたアンジェラに、彼は軽く笑う。
「ところでお嬢様。『契約』とは一体何のことでしょう?」
彼の言葉にアンジェラはギクリと肩を強張らせ「何のことかしら?」としらを切る。
「旦那様がとても悔しそうに、しきりに『契約だからしょうがない』と仰られていたので、気になりましてね」
「き、聞き間違いではないかしら?」
出来れば契約の事は知られたくない。
十歳の子供が男を欲して父と契約したなんて、あまりにも恥ずかしすぎるではないか。
しらを切りとおすアンジェラにヘンリーは苦笑する。
「すみません。また意地悪をしてしまいました。実はスーザン様にお聞きました」
「スージー? 何であの子が知っているの?」
アンジェラは首を傾げた。父との契約のことは、今まで誰にも話していない。
勿論スージーにもだ。