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実業家お嬢様と鈍感従者
第13章 タイムリミット
「立ち聞きされていたのですよ。お嬢様が私を欲して旦那様に『契約』を強要されているところを」
「……あの子ったらっ!」
妹に知られているのに頑なに言わなかった恥ずかしさと、ヘンリーに自分の欲望を知られた恥ずかしさに、穴があったら入りたくなった。
「素敵な妹様です。あの方が私を叱咤してくださらなければ、私は貴女への想いを胸に秘めたまま、鬱々と年を取るしかなかったでしょう」
ヘンリーの言葉にアンジェラも同意した。本当に妹には感謝してもし尽くせられない。
「そして旦那様は、やはり素晴らしいお方です。貴女の心が将来もずっと変わらなかった時の事を考え、私達に教養と、実業家としての道を与えてくださった」
アンジェラはその指摘にはっとした。
(何故今まで気がつかなかったのだろう。一番私の心を信じて下さったのは、ほかでもない――お父様だったのに!)
呆然としたアンジェラの頭を、ヘンリーはぽんぽんと撫で続けてくれた。
しかし暫くして、とても面白い玩具を見つけた子供のように、楽しそうな表情で語りかけてきた。
「そして、貴女がそんな小さな女の子の頃から私の事を熱望されていたことも、知ることもなかたでしょうしね?」
もうぐったりするほど赤くなっている彼女に、追い討ちをかけるように彼は言う。
「……もういやぁ!」
両手で耳をふさぐアンジェラの腕を握ると、ヘンリーは神妙な顔になって告解した。
「こんな『契約』期限ぎりぎりになって、本当に申し訳ありません。私はずっと貴女の幸せは、伯爵になり何不自由ない生活をする事にあると疑いませんでした。そして、私も恐かったのです。何も持たない私は、貴女を不幸にこそすれ、幸せにする事など出来るはずがないと……。でも貴女は物心付いた頃から、ずっと私にその答えを与え下さっていたのに、やっと気付いたのです」
彼は見ているものを蕩けさせる様な笑顔で続けた。
「もっともっと、私を欲しがってください。私は全てお嬢様のものです。そして、私にも貴女を下さいますか?」
もう言葉に出来なくて、アンジェラはこくこくと頷いた。
主人と使用人間の接触に五月蝿いほど敏感で、いつも分を弁えて彼女に触れようとしなかったヘンリーが、白い手袋をもどかしそうに前歯で噛んで脱ぎ捨てる。