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実業家お嬢様と鈍感従者
第3章 十六歳の誕生日
「え……なんで知っているの?」
「お姉様ほど見ていて分かりやすい人、この世に存在しないわよ。ていうか、何でそれを今、言いに来る必要があるの?」
妹がそう言うのもしょうがない。
まだ早朝の六時だった。
しかしアンジェラはそんな妹の訴えを無視して、話を先に進める。
「あ、あのね……私、来年の誕生日までにヘンリーと恋人になりたいの」
恋人という言葉に、アンジェラの頬が赤くなる。
「……どういうこと?」
「……ごめん、理由は教えられない」
不思議そうに聞き返す妹に、父との契約を思い出し、アンジェラは口を噤む。
「ふうん……どうせ、お姉様が必死こいて実業家になったのと、何か関係があるのでしょう?」
「うう……」
鋭い妹の指摘に肯定する訳にもいかず、アンジェラはうなってみせる。
「でもさあ、確かヘンリーって領地に彼女がいるのじゃなかったかしら? あの人、女の使用人達に人気があるから、みんなもの凄く悔しがっていたわよ」
「そう……そうなの。だからスージーに相談に乗って欲しくて」
やる気の無さそうな妹は、姉の一大事にも関わらず面倒くさそうな顔をした。
「はあ……無理じゃない?」
「ええ~! お願い、スージーにしかこんなこと相談できないの! 見捨てないで」
暖かい羽根布団の中に戻りたそうな妹に抱きつくと、アンジェラは必死の思いで頼み込む。
「え~……じゃあさ、とりあえずお姉様がどれだけ本気か見せてくれる? 今日中にヘンリーに好きって告白して。それが出来たら相談に乗ってあげるから」
妹は気だるげにそう言いい、その後ボソッと「面白そうだし」と小さく呟いた。
「え……今日中? 無理! 絶対無理!」
告白するだけでも勇気がいるのに、ましてや彼女持ちの彼に気持ちを伝えるなど出来る気がしないアンジェラは、必死に胸の前で両手を振って抵抗した。
「あ、そ。じゃあ、もう諦めなさい」
上掛けを掴んで欠伸をした妹は、もう興味を失ったかのようにそう言った。
アンジェラは焦って言い募る。
「いや、ちょっと待って! やる、やるから。今日、ヘンリーに告白する――っ!」
「オッケ~。じゃあ、今日の夜二十二時にこの部屋に集合ね。私寝なおすから、出てって」
妹はそう言ってベッドに潜り込むと、手だけでしっしと退去を命じた。