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実業家お嬢様と鈍感従者
第3章 十六歳の誕生日
「へ……ヘンリー……」
「はい」
「……私、好き……なの。貴方のことが……」
(い、言っちゃった~っ!)
絞り出した言葉は声が震えて掠れてしまったため、言った後ちゃんと彼に聞こえたのかどうか不安になった。
しかしその心配は杞憂だったようで、彼は一瞬眉を潜めたあと、少しだけ頬を緩めて返してくれた。
「ありがとうございます。光栄です……しかし、改まってそのようなことを言って頂くと、やはり照れますね」
彼の反応がどうもおかしいと気付き、アンジェラは不安になりさらに言い募った。
「えっと……ヘンリー……私はその……貴方を殿方として――」
「私もお嬢様の事をお慕い申し上げております。私のお仕えするお嬢様としても――乳兄妹としても」
普段ならば絶対主の言葉を遮ったりしない彼が、顔色一つ変えず会話に割り込んだ。
(……ヘンリー?)
「ですから今、こうやってお傍でお嬢様のお世話が出来ることがとても嬉しいですし、安心します。貴女はいつもご自分の健康を省みないで無茶をしますからね、兄代わりとしては近くで見守っていられると安心できます」
彼はそう言って、昔アンジェラによくそうしたように、手袋に包まれた大きな掌で彼女の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「………」
「お嬢様、御用がお済みのようでしたら、そろそろご就寝の準備をなさいませ。今、メイド達を呼んで――」
勝手に用を済ませて背を向けて出て行こうとしたヘンリーに、アンジェラは必死で叫んだ。
「私はっ! 貴方を殿方として好きっ!」
ヘンリーの黒いお仕着せの背中がピクリと震え、こちらに背を向けたまま立ち止まった。
「貴方を……愛しているの……」
アンジェラは必死に、彼の心に届くように言葉を紡ぎ出す。
流されたくない……たとえ振られると分かっていても、私のこの十三年間の想いを無かったことには絶対にして欲しくない! そうアンジェラは心の中で祈った。
「……お嬢様……私が使用人ということを、お忘れですか?」
沈黙の後発せられた彼の声は、今まで聞いたことのない冷たい声だった。
アンジェラは竦み上がりそうになる心を必死に抑え、言い返す。