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実業家お嬢様と鈍感従者
第3章 十六歳の誕生日

「……ヘンリー。主だろうと使用人だろうと、同じ人間でしょう? 恋だって、するわ」

「違います。貴女は何も解ってはいない――」

背を向け続ける彼は、アンジェラの言葉に大きく息を吐き出した。

「ヘンリー……」

「私には恋人がいます。貴方の気持ちには、答えられません」

硬い拒絶の言葉だった。

そう言われるだろうと覚悟していたけれど、実際彼の口から言われると、想像していたショックの何倍もの衝撃が、アンジェラの胸を刃のように貫いた。

(でも……でも、諦めるなんて……出来ないのよ――!)

「……知って……いるわ……」

口から零れた言葉に、ヘンリーがはっとアンジェラを振り返った。その瞳は驚愕に満ちたものだった。

「でも、知っているけれど……私の気持ちを、ヘンリーに伝えたかったの――」

まっすぐにヘンリーの緑色の瞳を捕らえて、アンジェラは渾身の気持ちを伝えた。

しかし彼は暫くして視線を外すと、無言できびすを返して出て行った。

「………」

アンジェラは動くことも出来ず、ずっと彼が出て行った扉を見つめていた。





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