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実業家お嬢様と鈍感従者
第4章 意中の彼を落とす作戦・その一 汝、まずは敵について知るべし!
ヘンリーが呼んだレディーズメイドに就寝の準備をされた後、アンジェラは妹との約束の二十二時までまだ時間が有るにも拘らず、スージーの部屋にとぼとぼと向かった。
「……どうだった?」
ロマンス小説を読んでいた妹は、本から視線を上げると無表情で聞いてきた。
アンジェラは彼女の向かいのソファーに、崩れるように倒れこんだ。
「……玉砕」
「ま、そりゃあそうでしょうね」
妹はそう冷静に返すと、また本に視線を戻す。
「スージー!」
アンジェラが恨めしそうに名を呼ぶと、妹は肩を竦めて読んでいた本をサイドテーブルに置いた。
彼女の就寝準備をしていたメイドを下げさせる。
「だから言ったでしょう、お姉様がヘンリーを好きなことくらい、よほど鈍感な者でない限り直ぐにばれるの。ヘンリーだって気付いていたのよ」
「ヘンリー、私の気持ちを『兄に対する愛情』とすり替えようとしたわ」
言葉にするとなおさら自分の惨めさが浮き彫りになった気になり、アンジェラはさらに落ち込んだ。
「で?」
「で……って?」
頭上から降ってくる言葉に、アンジェラはのろのろと頭を上げて聞きなおす。
「もう嫌になった? これからも好きでいるのが」
「そんなはずある訳ないじゃない! 私、物心付いた頃からずっと好きだったのよ」
アンジェラは勢い込んで反論する。
ずっと彼のことだけを愛してきて、やっと気持ちを伝えられたのだ。
そう簡単に諦めることなど、出来るはずもなかった。
「そうこなくっちゃ! じゃあいくわよ。ええと……彼女の名前はポーラ。十九歳――」
スージーはアンジェラの答えに瞳を爛々と輝かして嬉しそうに微笑むと、本の間からなにやら紙を取り出してすらすらと読み上げ始める。
「ちょっと待って! スージーあなた、どこでそんな情報を?」
突然の事に驚いたアンジェラはソファーから立ち上がって、妹を見下ろす。
「ん? 今日その辺の使用人をとっ捕まえて聞きまくったわ。後、ヘンリーの妹のティルダからも前に聞いていたし」
何でも無い事のように淡々と返す妹に、アンジェラは目を白黒させて確認する。
「え~っ! も、勿論皆に私が知りたがっているって、言っていないわよね?」