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実業家お嬢様と鈍感従者
第4章 意中の彼を落とす作戦・その一 汝、まずは敵について知るべし!
「言ってはいないわよ。でも言わなくても皆にはバレバレだって、さっきから言っているでしょ?」
「……そんなぁ。もう恥ずかしくて、明日から皆の顔を見られないわ」
血の気がさあっと引いていく。
アンジェラがヘンリーに話しかけるたびに、皆が内心ニヤニヤしているのかと思うと、もう一生、彼に人前で話しかけられないような気がした。
「何を言っているの、今更。そんなんじゃ来年迄にヘンリーをものに出来ないわよ。時間ないのでしょう? 『意中の彼を落とす作戦・その一 汝、まずは敵について知るべし!』よ!」
スージーはびしっと人差し指を姉に向けて指して、そう断言する。
「うぅ~」
恥ずかしさもあったが、ものにするとか、落とすとか、敵とか……妹の少女らしくない物言いにも戸惑い、アンジェラは唸って手近にあるクッションを付かんで抱きこむことしか出来ない。
ちなみに妹の部屋は青色を基調とし、アンジェラの部屋は赤色を基調とした高価なダマスク織のファブリックで統一されており、各々の個性が現れていた。
「じゃあ、続けるわよ。ポーラ 十九歳。領地のハウスメイド。父は――」
「ちょっ、ちょっと待って! か……彼女、ここの使用人なの?」
まさか当家の者の中に、彼の恋人がいると思っていなかったアンジェラは、妹の報告に愕然とした。
しかしスージーは信じられないものを見る目で、姉を見つめて嘆息した。
「あのねえ……お姉様ってどこまで世間知らずなの? 考えてもみなさいよ。ヘンリーはうちに住み込みで、週一の休み以外はずっとお姉様と行動を共にしているのよ。そんな彼に階下の世界以外に、どこに出会いの場があると思うのよ?」
言われてみればそうだった。しかし――、
「……うちは使用人同士の恋愛は、禁止じゃなかった?」
「うちだけでなく、ほとんどの上流階級の屋敷は同じでしょうね。そしてどの屋敷でもそんな不分律が守られるはずが無いこともね」
妹は姉の指摘に自信満々に答えた。
誠実を絵に描いたようなヘンリーが、規則を破っていたとは驚きだった。
「……彼が守りを破るだなんて……信じられないわ」