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実業家お嬢様と鈍感従者
第4章 意中の彼を落とす作戦・その一 汝、まずは敵について知るべし!
「規則なんて破る為にあるようなものじゃない。それに、ずっと働き詰めの彼らにしてみれば、唯一の息抜きだろうし、スリルのある遊びのようなものなのよ」
妙に知ったかぶりをする妹を不思議に思い「スージーはどこでそんな情報を仕入れたのよ?」と問うと、彼女は遠くの書棚を指差した。
眼を凝らして見ると、なるほどその中身の大半はロマンス小説だった。
「………」
アンジェラは仕事があるためにあまりロンドンを離れることは出来ないが、それでも今のように、少なくとも一年の三分の一は領地のオルソープに戻っていた。
その領地の同じ屋根の下に自分の好きな人が恋人同士として居る。
そして彼らがここで愛を育んでいたのかと思うと、ショックを通り越し、あまりの衝撃で涙さえも出なかった。
大人しくなった姉を不憫に思ったのか、妹は少し同情の視線を寄越しながらも、報告を続けた。
「ポーラの父は小作人、母は洗濯女中。五人兄弟の長女よ。容姿は中の下。赤毛に小さな茶色の目。スタイルも普通……ちょっと意外じゃない? ヘンリーは綺麗な顔をしていてモテるから、てっきり彼女も美人かと思っていたわ」
未だ衝撃から立ち直れないアンジェラは、妹の問いかけにおざなりに答える。
「……そうね……でも、彼が好きになったひとだもの。容姿以外にも素敵なところがあるのでしょう……」
「……そうねえ。ああ、器量はとてもいいみたい。いつも笑顔で皆が嫌がる仕事も文句を言わずにこなすらしいわ。とても努力家で……ああ、これは内密な話なのだけど……」
「なあに?」
興味を示したアンジェラを見て、妹は彼女に近づき小声で打ち明ける。
「……今、私のレディーズメイド(女主人専属のメイド)の一人を、妊娠して里に下がらせているのだけど。どうやらその後任に、ポーラがいいのじゃないかって話が来ているの」
「……えぇ~っ!」
「ちょっと、耳元で叫ばないで!」
アンジェラの叫びに大げさに耳を塞いだ妹が、抗議する。
「あ、ごめん。でも、そんなぁ~」
ハウスメイドであれば、主と直接接することはめったに無い。
彼女達は館の清掃や階下の細々とした雑務を役割としているからだ。