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実業家お嬢様と鈍感従者
第6章 意中の彼を落とす作戦・その三 汝、彼に気持ちよく話させろ!

「じゃあ、今度ヘンリーが教えて」

「……男の私が扇の使い方を知っていたら気持ち悪いでしょう」

ヘンリーはアンジェラの提案に少し眉を潜めたが、彼女は彼の中性的な顔のラインをみて首を傾げる。

彼なら女装せずともそのまま黒い扇でも持たせたら、男装の麗人並みに色気があって似合いそうだ。

「そうかしら。貴方の顔はとても綺麗だから似合うと思うけれど」

「………」

無言になった彼を見ると、一見無表情な瞳の奥に強烈な怒りの炎が湧き上がっているを確認し、アンジェラはすごすごと椅子に座って謝罪した。

「……ごめんなさい、撤回します」

「宜しい。……では紅茶の入れ方をご説明します。まずポットは予め暖められたものがティーコージーを被せて用意されていますので……」

大人しくなったアンジェラに、彼は紅茶の入れ方を説明しながらテキパキと用意していく。

彼女は無駄の無い洗練されたヘンリーの動きに目を見張る。

いつも彼が紅茶を用意してくれているが、既にポットに入れて蒸らした状態の紅茶を持ってこられていたので、準備段階は初めて目にした。

まさに流れるような所作であっという間に目の前に提供された紅茶と、彼の姿に見惚れる。

口を付けると彼女の好きな少し熱めの温度で、口の中に茶葉の芳醇な香りと、オレンジの花のエキゾチックな香りが広がる。

「すごい……綺麗……しかも美味しい」

「綺麗……ですか?」

彼はアンジェラの感想に不思議そうに聞き返す。

「ええ、すごく所作が綺麗。流れるようで本当にエレガントだわ。やっぱり私、所作の講義は受けることにするわ」

そう賞賛した彼女に、彼がふっと笑い声を溢した。

「ヘンリー?」

「まさか紅茶の入れ方をお教えすることで、所作の講義に興味をお持ちいただけるとは。それだけでも収穫がありましたね」

優しく細められた瞳に見つめられ、鼓動が高鳴る。
しかしそれは一瞬のことで、直ぐにもとの無表情に戻ってしまった。

(笑ってくれた!)

「こ……今度は私が入れるわ!」

もう一度彼の微笑が見たくて、アンジェラは習った手順で紅茶を入れ始める。

しかし家事の一つもしたことの無い彼女は雑で、お湯は飛び散るは、茶葉は溢すはで散々だった。

それでも何とか用意した紅茶を、無理やりソファーに座らせた彼の前に置く。

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