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実業家お嬢様と鈍感従者
第6章 意中の彼を落とす作戦・その三 汝、彼に気持ちよく話させろ!
「ど……どうぞ……」
「頂きます」
色は薄くてカップの底に茶葉のカスが沈んだ、見た目からしてあまり美味しそうとは言えない紅茶を、ヘンリーは手に取る。
見た目や香りを確認し口にした彼の返答を、アンジェラはドキドキしながら待った。
「……お客様には、出来れば私が用意したものを、お嬢様がお注ぎ頂いたほうが宜しいかと……」
言い難そうに口を開いた彼の返事にがっかりする。
「やっぱりまずいのね」
「しょうがありませんよ。紅茶は奥が深いです。茶葉の大きさ、種類によっても蒸らし時間も異なりますし、相手の好みもありますしね」
珍しく励ましてくれた彼を情けない顔で見上げる。
「貴方、どうやって紅茶の入れ方を習得したの?」
「基本的な事は祖父に教わりました。茶葉の種類や産地等については出入りの業者から聞いたり本で調べたり、美味しい紅茶を出す店に行ってみたり……」
「………」
彼の言葉に驚いた。
彼は学校に通いながらアンジェラとの勉強にも付き合い、近侍として働きながらも紅茶ひとつにも気を配っていてくれていたのだ。
「お嬢様、どうされました?」
賑やかにしていたアンジェラが急に黙り込んで、ヘンリーが尋ねる。
「ヘンリーがそんなに頑張ってくれていたこと……私全然気付いていなかったわ。なのに私は、これ嫌いとか我侭ばかり言って……ごめんなさい」
今でこそ彼は彼女好みのものを出してくれるが、近侍に成り初めの頃、アンジェラは彼に対して毎日まずいだの嫌いだの言っていた。
今更ながら申し訳なくて、彼女は俯いて謝った。
「それは我侭ではありません。好みを言って頂けたほうがより美味しいものをお出し出来るでしょう。貴女は小さい頃から確かに我侭なところもありますが、ちゃんと大事なところは見ていて相手に気遣いが出来る方です」
「……本当?」
彼のフォローにすごすごと頭を上げると、彼はうなずいて見せた。
「それにお嬢様に紅茶をお出しするのは私の楽しみの一つなので、出来れば取り上げないで頂きたい」
「え……楽しみ?」
彼はアンジェラの入れたまずい紅茶を飲み干すと、ご馳走様でしたと言ってくれた。
「仕事の合間に好みの紅茶を口にされると、肩の力が抜けてらっしゃるのが伝わってきます。それを拝見するのが好きで……自己満足のようなものですね」
「ヘンリー……」