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実業家お嬢様と鈍感従者
第6章 意中の彼を落とす作戦・その三 汝、彼に気持ちよく話させろ!
「やだ。ヘンリーのお休みの日に、一緒に歩いてお散歩したいの」
出来れば手を繋いでもらって、池のほとりのベンチに座って色々お話して……上手くいったらキスなんて……! アンジェラは自分の想像に頬が赤くなり、両掌で頬を包んだ。
「無理です。第一、社交デビュー前の子女は、むやみに人前に出てはなりません」
彼女の妄想をひねり潰すように、ヘンリーは真顔できっぱりと否定する。
「そんなあ……」と情けなく言い募るアンジェラに厳しい顔をした彼は
「はい、アフタヌーンティーは終わりです。早く資料に目を通してください。またディナーの時間に遅れて、奥様に怒られますよ」
とアンジェラのデスクに詰まれた資料の束を指差し、自分はティーセットを片付け部屋を出て行った。
その後、何日もかけて学校での思い出についてや趣味について尋ねてみたけれど、やはり彼はなかなか話してくれず、作戦を実行できなかった。
だが教養については、彼はかなり雄弁であることに気づいた。
主従は各々経済や商業、法律関係の書物を取り寄せて読むのだが、彼は彼女に勧めたい本についてや、経済理論について主の意見を聞いてみたいときなどは彼のほうから話しかけてくれるし、下手したら議論が過熱して二人ともディナーの時間を失念し、メイドに声を掛けられることもあった。
結局、彼は今までアンジェラとは教養や主と使用人としてでしかまともに喋ってくれていなかったのだと今頃分かり、随分とがっかりした。
*
「ねえヘンリーの女性の好み、教えて?」
今日も朝からアンジェラ様は、何かにつけて構って来る。
そんなことを聞いて一体どうするつもりなのだろうか。
どんなことがあっても自分は女として彼女を選ぶことはないのに、もし彼好みに変わる等と言い出されたら、ものすごく困るし時間の無駄だ……。
そう思い、ヘンリーは彼女にいらない期待を持たせないよう、きっぱりとした態度を取ろうと決心した。
「聞いて後悔しませんか?」
「……男の方が好きとか?」
おずおずと返された言葉に、力が抜けそうになる。
この方はこの期に及んでバイセクシャルの汚名まで自分に着せたいのだろうか……。