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実業家お嬢様と鈍感従者
第2章 プロローグ
「純利益前年比二十パーセントアップを達成しろって! ってそんなことはどうでもいいの! 今のところこの調子だと何とかなるから。それよりも……」
勢い込んで父からの命令を口にしたアンジェラだったが、しかし急に言い淀んでぐっと詰まった。
何か言いたげな顔でヘンリーの顔を見上げてくるが、悔しそうに俯くと「なんでもない」と呟き、新聞を広げて経済面を読み始めた。
「………」
(そんな顔をされたら、ものすごく気になるのですが……)
彼女が友人であれば、あらゆる手段を使って聞き出すところだが、一応お仕えする主であるため、ヘンリーはぐっと好奇心を抑えた。
二人しかいない書斎は静まり返り、アンジェラが新聞をくる音だけが響く。
外はそう積もらないだろうが、しんしんと雪が降り続いていた。
締め切った大きな窓から、何台もの馬車がこの館に押し掛けている音が聞こえ始める。
ヘンリーは胸ポケットに入れていた懐中時計で時間を確認すると、アンジェラを急かした。
「さあ、お嬢様。そろそろ御支度を始めましょう。なんたって、本日は貴女様の十六歳のお誕生日でございますからね――」