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実業家お嬢様と鈍感従者
第3章 十六歳の誕生日
誕生日パーティーは盛況であった。
百人超のお客様をお迎えし大広間(ホール)で行われる舞踏会は、まず主役のアンジェラが伯爵である父とダンスを踊り、幕切られる。
彼女は本日のエスコート役、父方の叔父バーナード卿と連れ立って、招待客へ挨拶をして回っていた。
通常、まだ社交界にデビューしていない娘の場合、自分の誕生日とはいえほとんどの客は両親の知人で、さらに目立った言動が許されない為に主役の本人はつまらないものだ。
しかし彼女の場合は叔父のバーナード卿を代表に据え、実際の事業経営は彼女がしていることが社交界の暗黙の了解とされている為、今日の招待客の大多数が彼女自身の得意先、又はご機嫌伺いであった。
二時間ほど客への挨拶をしていたアンジェラはくたくたになり、小さめで人の少ない広間(サルーン)に逃げ込んだ。
各広間には客の為に立食形式の食事や飲み物が用意されている。
「アンジー、少しここで休憩しておいで。ヘンリー頼んだよ」
彼女の叔父はアンジェラを手近な椅子に座らせると、近くにいた知り合いのところへ行ってしまった。
「お嬢様、お疲れではありませんか?」
彼女の好きなオレンジジュースのグラスを手渡すと、アンジェラは少し疲労の溜まった顔を上げて嬉しそうに受け取り、一気に飲み干した。
「ええ、大丈夫。後一時間したら抜けていいってお父様に言われたから、もう少し頑張るわ。それより、ちょっとのぼせちゃったから外に出たいわ」
ヘンリーは彼女の手を取って、雪かきをされた近くの露台(バルコニー)に出た。
肩を出したデザインのドレスではさすがに寒いだろうと、自分のディナージャケットを主の細い肩にかけてやる。
アンジェラは「ありがとう」と嬉しそうに笑うと、火照った体に夜風を浴びて気持ちよさそうに深呼吸をしていた。
粉雪を纏った風が彼女の薄紅色のドレスの裾を煽り、ヘンリーの足に絡ませる。
「よくお似合いです」
「あ、ドレス? やっぱりヘンリーの押してくれたピンクにして良かったわ」
ドレスを褒められた彼女は嬉しそうに、くるりとその場で一回転してみせる。
絹タフタと絹サテンのストライプの布地に、繊細なレースと手の込んだトリミング装飾が凝らされたオーバースカートを重ねたクリノリンシルエットのドレスは、フランスで流行のそれを彼が取り寄せたものだった。