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実業家お嬢様と鈍感従者
第7章 (略)意中彼落作戦・四 汝、彼の悩み相談で信頼を勝ち得ろ!
最近お嬢様の様子がおかしい事は気づいていた。
急にヘンリーの前で笑顔が絶えなくなったり、彼と休日に出かけたいと言ってきたり。
注意深く彼女の行動を観察していると、彼女は頻繁に妹のスージーの部屋を行き来していることに気付いた。
(絶対、妹に遊ばれている)
アンジェラの妹のスージーとも、小さな時から領地で兄妹の様に一緒に過ごしてきた。
もっともアンジェラはヘンリーに懐いていたが、スージーは彼の妹のティルダのほうと仲が良かった。
スージーの性格は一言で言うと『旦那様にそっくり』。
猪突猛進型の姉に比べて現実的で冷静な妹は、暇を見つけてはアンジェラをからかって楽しんでいる。
大方、スージーの愛読書のロマンス小説に書かれている『恋の駆け引き』テクニックでも試させているのだろうと思い至る。
そして今日もお嬢様はヘンリーに構って来た。
「ヘンリー、最近困っていることとか、悩んでいることとかある?」
「特にはございません。お気遣い頂き、ありがとうございます」
丁寧にそう応えても、彼女はそんな彼の返事につまらなさそうだった。
「貴方は完璧人間だから、悩みなんてないのかしら……羨ましい……」
彼女のその返事に内心呆れる。
自分のどこをどう取れば完璧人間なるものなのか不明であるし、さらに主に自分のことをベラベラと話す使用人などいるはずがない。
それにヘンリーから見れば彼女のほうが悩みとは無縁に見える。
恵まれた貴族として生を受け、容姿・頭脳にも恵まれ、さらに――本来、貴族には不要だが――実業家としての素質もある。
悩みなど、父親が過干渉過ぎることぐらいだろうに。
「お嬢様は、何か悩みでもあるのですか?」
「私? あるわよ沢山、嫌になるほどね。って、今は私の事じゃなくて――!」
彼女は両手をオーバーに肩の辺りで開いて見せるが、話を摺り返られたと気付いたらしく反論してくる。
「それは聞き捨てなりませんね。さあ、全て仰ってください。私でお力になれることがあるかもしれません」
主の悩みを解決するのも近侍の仕事だと思い発した言葉に、彼女は悪戯を思いついた子供のような顔で、にやりと笑う。
「ふ~ん。本当に力になってくれるの?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、悩みその一! 好きな人が振り向いてくれません!」