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実業家お嬢様と鈍感従者
第7章 (略)意中彼落作戦・四 汝、彼の悩み相談で信頼を勝ち得ろ!
悩みの話をしているのに、アンジェラは瞳をキラキラと輝かせて打ち明ける。
内心またかと舌打ちしたが、聞いてしまった手前しょうがなくヘンリーはとぼけた。
「はあ、どこの貴族のご子息ですか?」
「って、ヘンリーのことに決まっているでしょ!」
食い気味にヘンリーの質問に返してきた彼女に、彼は嘆息する。
「まだそんなことを……」
「そんなことって……だって私、物心付いた頃からヘンリーのことが好きだったのよ?」
「兄として、でしょう? それに貴方が好意を伝えてこられたのは、ごく最近です」
「それは――」
彼女が口ごもって俯いてしまい、二人の間に静寂が訪れた。
困ったようにドレスを指で弄ぶ衣擦れの音だけが、室内に響いていた。
ヘンリーは嘆息を噛み殺す。
既に主の気持ちに答えられないときちんとお返事申し上げたのに、彼女は納得してくれない。
何度も何度も憎からず思っている相手を傷つけることを言わなければならない自分の運命を、ヘンリーは少し恨めしく思った。
「お嬢様、先程私は嘘を申しました」
「え?」
破られた沈黙に、アンジェラが色白の小さな顔を上げる。
「私の悩みの種は、お嬢様です」
「私……?」
「恋愛に興味を持ち始めた貴女は、一番身近にいた私を『好き』になったと勘違いされていらっしゃる――」
「勘違いじゃない!」
むきになって言い返してくるアンジェラに、ヘンリーはわざと突き放して聞こえるように話して聞かせる。
「旦那様がなぜ私のような一介の使用人に、貴族の子息が通う学校への入学を斡旋してくださったのだとお思いですか?」
「え? 貴方は頭が良くて、勉強熱心だったから……でしょう?」
彼女は何をいまさらとでも言いたげな顔で、応える。
「お嬢様……世間知らずにも程がありますよ。あの学校に通うのに、一体どれだけの費用がかかっているのかお分かりですか?」
「………」
ヘンリーは心底呆れ返った。
この方は生まれ付いての生粋の貴族。
たとえ事業をしていても実物の紙幣に触ったことすらなく、自分が当たり前に享受している生活にいくらかかっているかなど、考えたこともないのだ。