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実業家お嬢様と鈍感従者
第7章 (略)意中彼落作戦・四 汝、彼の悩み相談で信頼を勝ち得ろ!
「くしゅん」
小さなくしゃみと同時に、華奢な彼女の体が震え始める。
もう戻ったほうがいい。
風邪を引いたらヘンリーや皆に迷惑をかけてしまう。
そう頭では分かっているのに、体はその場を立ち去ることを躊躇っていた。
両膝を抱え込んで丸くなり、金色の小さな頭をポスンとドレスの膝に埋める。
先程から頭に浮かぶのは、ヘンリーの怒った顔ばかり。
(困らせたい訳じゃないのに……)
ヘンリーに好きだと伝える度に、彼の綺麗な顔を曇らせてしまう。
自分が人付き合いに関して不器用なほうだという自覚はあった。
小さな頃からヘンリーと彼の妹、そしてスージーとしかまともな会話をせず、事業を始めてからは特に、顧客とヘンリー以外とはほとんど会話らしい会話が無かった。
心を寄せている相手を喜ばせる為に何をすればいいのか、どう伝えればいいのか……そういう人付き合いが不得手だった。
両想いになるというのは凄いことなのだと、彼に告白して三ヶ月たった今、つくづくそう実感している。
(世の恋人達は奇跡を起こした結果、結ばれているのね……て、ポーラと彼も恋人同士なのだけどね……)
落ち込みそうになったとき、ふわりと軽いものが彼女の体を包み込んだ。
ぼうとする頭を少し起こすと、白く毛足の長い毛皮が視界に入る。
そう言えば寒さも幾分ましになったような――。
はっとして面を上げると、いつの間にか扉を背にしたヘンリーが目の前に立っていた。
「まだここに居たいのならば、せめてそれを被っていてください」
アンジェラは驚いて口を開く。
「どうして……ここが?」
「貴女は昔から本当に辛い時や落ち込んだ時、いつもこの東屋に立て篭っていましたからね」
彼はそう言って少し困ったように肩を竦める。
そうだった。
昔からアンジェラは両親や家庭教師とやり合って飛び出した後、いつもここに来て一人でわんわん泣いて、気持ちが落ち着いた頃、彼が迎えに来てくれていた。
最後にここに来たのは、彼が学校に入学するためロンドンへ発ったときだ。
淋しくて辛くて、ここで泣いていたらきっと彼が迎えに来てくれる……そう期待したが、勿論彼が現れることはなかった。
「申し訳ありません……言葉が過ぎました」
彼は表情を引き締めて、辛そうにアンジェラに頭を垂れる。