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実業家お嬢様と鈍感従者
第7章 (略)意中彼落作戦・四 汝、彼の悩み相談で信頼を勝ち得ろ!
(彼は何一つ間違った事を言っていない――)
「……貴方が謝ることなんて、何一つないのよ――」
アンジェラはのろのろと木のベンチから立ち上がり、頭を下げ続ける彼の広い肩に手を添え、ゆっくりと押し上げた。
視線を上げた彼が、気遣わしげにアンジェラの言葉を待っている。
「帰ろうか……」
唇だけ笑みの形に引き上げて見せる。
彼の緑色の瞳の中にはまだこちらを気遣う色が見えたが、彼女が少し首を傾けると「ええ」と頷いた。
ベンチに落ちてしまった肩掛けを拾うと、彼は再度肩にかけて首の辺りでポンポンの付いたリボンを結んでくれる。
「ありがとう」
今度はきちんとした微笑みでヘンリーを見上げる。
彼がアンジェラの首から手を引いた時、指が少しだけ彼女の頬に触れた。
「え……どうして貴方、そんなに手が冷たいの?」
びっくりしてヘンリーの大きな手を取ると、アンジェラの手よりも冷たくまるで氷の様だった。
「貴方もしかして……ずっと東屋の外に居たの?」
その問いかけに彼は「そんなに暇ではありませんよ」と軽く流し、アンジェラから視線を外した。
彼女は彼の両手をぎゅっと握り締めた。
冷え切った長い指から手袋越しに彼女のそれへと冷気が流れ込んでくる。
「直ぐ中に入って来れば良かったのに……」
ヘンリーはアンジェラの手を解こうとしたが、彼女は強く握って離さなかった。
「お嬢様」
ヘンリーが厳しい色を湛えた瞳で見下ろしてくる。
「これは、ラブラブ手繋ぎじゃなくて、単なる防寒よ!」
負けじと彼を強く見上げてそう言うと、彼は苦笑した。
「何ですかそのネーミングは。それに貴女の手も私と変わらないくらい冷たいです」
片眉を上げて見せる彼の気の置けないそのしぐさに、心がトクリと波打つ。
このままずっとこうして手を繋いでいたい、そんな欲求に駆られたが、彼がお仕着せのジャケット一枚であることに気付いて、片手だけ離して繋いでいる手を引っ張った。
「戻りましょう。お互い風邪引いちゃうわ」
彼はまだ繋がれたままの片手を持ち上げると「これも防寒ですか?」と聞いて来る。
「防寒よ!」
アンジェラはそう自信満々に言って笑うと、彼を引っ張り東屋の扉を開けた。