この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
実業家お嬢様と鈍感従者
第8章 意中彼落作戦・五 汝、押して駄目なら引いてみろ!
昼食会が始まるまでまだ掛りそうだったので、二人はそのまま近況報告等をしていた。
ヘンリーが今お仕えしている主の話になり、少し離れた場所に居るアンジェラを見た途端、彼が合点した。
「ああ、そうか! あの当時、ちょくちょくお前を校門で待っていたのは、レディーアンジェラか!」
マットは当時を思い出したのか破顔した。傍に居た妙齢のご婦人がその笑顔を見て頬を染められたのが視界に入る。
昔から女性受けの良い甘いマスクをした男だったが、成長し凛々しくなった上に、さらに男としての匂い立つような色気が加わったようだ。
「もの凄いお転婆娘だったのに、今はあんなに美しくなって。女ってのは変わるものだな」
「ほう。プレイボーイと名高い貴方でも、まだ女性に不勉強なところがあるようですね」
学生時代を思い出しつい軽口を叩いたヘンリーに、マットは笑って「言ったな、こいつ!」と肩を小突いてきた。
ヘンリーの口からもついつい笑いが零れる。
「あら、ヘンリーのお知り合い?」
気がつくといつの間に近くに来ていたのか、アンジェラが傍で屈託無く話していたヘンリー達を微笑ましそうに見ていた。
「はい。パブリックスクールの同級生で――」
「レディーアンジェラ。マシュー・ロックウェルと申します。実業家としてのお噂はかねがね窺っております」
ヘンリーの紹介を遮って自分で自己紹介したマットは、優雅に彼女の手を取りそっと口付けた。
「アンジェラ・ノースブルックです。ほんと、二人は同じウェストミンスターのアクセントですのね」
パブリックスクールには各校ごとに独特なアクセントがある。
アンジェラの仕事の都合で上流階級の顧客と会う際、同じアクセントで話すヘンリーに気がつかれた紳士達に可愛がられ、商談を優位に進めるのに正直役に立っていた。
旦那様には貴重な教育を施してくださり、感謝してもし尽くせないくらいだ。
「彼は学生の時からホント融通が利かないくらい、真面目人間でしたよ。私もそんな彼が面白くて、いつもちょっかい出していましたがね」
マットがヘンリーの脇を肘で突いて悪戯っぽく笑った時、執事が客人達に食事の準備が出来た旨を声高らかに述べた。